研究課題/領域番号 |
23720043
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
橋本 一径 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (70581552)
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キーワード | インテグリティ / 身体論 / 写真 / 犯罪人類学 / 指紋 / ミシン / 国際情報交換 / フランス |
研究概要 |
「インテグリティ(完全性、無欠性)」とは、「身体」の境界を指し示す語として、20世紀に入り法学や生命倫理学の領域で頻繁に用いられるようになった概念である。このような概念が必要とされるようになった背景には、19世紀を通じての、主としてテクノロジーの進展に伴う、「身体」の概念の変容がある。当該年度においては、この「身体」概念の変容をめぐって、主として以下の2つの観点から考察を行なった。 ①写真技術の発達に伴う身体イメージの変容。写真の発明は、人類が自らの身体を客観的に観察することを可能にする技術の発明でもあった。それは「身体イメージ」の形成に対しても少なからぬ影響を与えたはずである。報告者はこのような観点から、19世紀の写真技術にかんして、その技術が科学的・客観的な観察に与えた影響や、写真イメージの法的なステータスをめぐる議論を検討した。これらの成果はそれぞれ論文「稲妻写真論」「イメージの権利」として発表した。 ②犯罪人類学と「司法的身体」の誕生。19世紀末に誕生した犯罪人類学は、犯罪を遺伝などの身体的原因に帰着させる言説を展開させた。それは「人格」という擬制に代わって、「身体」が初めて法的な主体としてのステータスを獲得したことを意味する。このように近代における身体の法的な地位の変化を考える上では、犯罪学の歴史を検討することが不可欠である。当該年度においては、「動物と犯罪」および「フィクションから科学へ」の2論文において、この問題を検討した。 8月に実施したフランスにおける資料調査においては、上記の二点についての調査のほか、昨年度から実施している、テクノロジーと身体の関係の観点からのミシンの歴史についての調査も、引き続き行なった。また法制史家・精神分析家のピエール・ルジャンドル氏と面談し、有意義な助言を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書「研究計画・方法」内の「平成24年度以降の計画」に記載したとおり、当該年度においては、「身体イメージに関する人類学的な調査・考察」を中心に取り組んだ。とりわけ「写真」という具体的な手がかりを得たことは、研究の推進に大きく貢献した。 また「19世紀フランスの法思想における「身体」と「所有」の概念の思想史的分析」に関しては、主として犯罪人類学における議論を思想史的に振り返り、そこにおける身体の役割に着目することにより、少なからぬ成果を得た。その一方で「所有」の問題の思想史的検討については、当該年度においては十分に考察を進めることができなかった。次年度に予定している「「有機体説」についての思想史的考察」と合わせて、今後の課題としたい。 また昨年度は論文としての成果の発表の不足が課題として残されていたが、当該年度においては、3本の論文および1冊の共著を公表し、研究成果を世に問うことができたのは、評価できる点である。 一方で「ミシン」や「写真」など、交付申請書の段階では想定していなかった新たな題材を見出しことは、研究の進展に寄与するものであったものの、当初の研究計画との関連性が、現時点ではやや不明瞭であるのも確かである。最終年度である次年度において、関連付けを明確化することが求められる。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度である次年度においては、交付申請書の「平成24年度以降の計画」に記した内容に基づき、主として「「有機体説」についての思想史的考察」、ならびに当該年度の課題として残された、「所有」概念の思想史的検討を中心に、研究を進める。 具体的な研究の進め方については、主として19世紀フランスの医学および法学の一次文献の調査が中心となる。休暇期間を利用したフランス国立図書館での資料調査のほか、デジタルアーカイブを利用しながら、国内においても効率的に調査を進める。 これまでの研究の中で見出した主題である、「ミシン」および「写真」については、次年度においても引き続き研究を行い、学会発表または論文の形で成果を公表していく。また次年度は最終年度となるため、これまでに発表した成果を総括しながら、「インテグリティ」を主題としたモノグラフィを、論文の形で発表する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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