研究課題/領域番号 |
23720047
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐々木 千佳 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (50400198)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 工房 / ヴェネツィア / ヴィヴァリーニ |
研究概要 |
本研究はベッリーニ工房とヴィヴァリーニ工房という15世紀半ばのヴェネツィアにおける二大画家工房を研究対象に、その制作の実態を主題分類の点から分析するという目的から開始された。ヴェネツィア美術という偉大な潮流に多大な貢献をした画家工房の制作形態については、これまでの研究において十分に解明されているとはいえない。しかし、ヴィヴァリーニ工房は、家族を主体とした工房という形態からはじまり、祭壇画と小型の礼拝用板絵を内外の依頼者に向けて制作することで、当時の絵画需要に多大な貢献をしていた。そのことをふまえ、本研究では、地元の聖堂や信心会によって注文された板絵の主題に関する調査を通し、画家の様式の違いを観察するというこれまでの研究を一歩進め、工房の実体を明らかにした。各々の主題がどのように図案化されたのかという点に着目し、制作の過程で工房が果たした役割と、図像と社会的背景との関係を考察した。 以上をふまえ、今年度は以下の二点の方法によって作品分析を行った。1.両工房が異なる制作の様相をみせはじめる1470年代を軸に、その前後に制作された祭壇画と小規模板絵を分析する。2.ヴェネツィアをはじめ各地に現存する、同信会によって注文された祭壇画を中心に、同時代資料の読解を進め、〈聖母子〉から派生した中心的な図像が工房でどのように制作されていたのかという絵画制作の環境について考察する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、各々の主題がどのように図案化されたのかという点に着目し、制作の過程で工房が果たした役割と、図像と社会的背景との関係を考察するという計画について、以下の二点の方法によって作品分析を行った。それぞれについて中心となる作品とその主題が採用された背景に焦点を絞り作品の調査、文献収集を行った。1.両工房が異なる制作の様相をみせはじめる1470年代を軸に、その前後に制作された祭壇画と小規模板絵を分析する。2.ヴェネツィアをはじめ各地に現存する、同信会によって注文された祭壇画を中心に、同時代資料の読解を進め、〈聖母子〉から派生した中心的な図像が工房でどのように制作されていたのかという絵画制作の環境について考察する。 以上に対する主題の作品調査からは、小型の板絵の需要が増えた1470年代をひとつの区切りに、二つの工房が元来制作を行っていた聖母子タイプの伝統が形成された可能性が導き出された。いずれも、イコンに端を発する伝統的な造形表現にマンテーニャに影響を受けた簡潔な形態を主とする線的様式と光の表現を融合させたヴィヴァリーニ、聖会話形式へと続く聖母子の多くのヴァリエーションを生み、新たな型による形態表現を作り上げたベッリーニといった、それぞれ独自の様式と設置場所や目的に応じた主題との関係が、注文主にも理解され、また受容されたという結論が導き出された。
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今後の研究の推進方策 |
(1)基礎データの収集と整理:前年度に引き続き、作品のデータを収集しながら、データベース化のための整理を進める。(2)現地調査:前年度に引き続き、現地調査を進める。現地調査はヴェネツィアの聖堂を中心に各年10日程度実施する。今年度以降の調査予定項目は以下の通り。1.バルトロメオ・ヴィヴァリーニの1470年代以降の祭壇画および各板絵作品、2.アルヴィーゼ・ヴィヴァリーニ、その弟子であるムラーノ派画家たちによる各作品(アントニオ・ダ・ネグロポンテ)、3.ジョヴァンニ・ベッリーニの追随者たちによる2と同主題の各作品 (3)一次史料、典礼書の調査と読解:前年度に引き続き、以下に述べる事例研究と並行して、ヴェネツィア国立サン・マルコ図書館、市立図書館、国立古文書館にて聖堂に関する一次史料と典礼書を調査し、読解に努める。(4)事例研究:〈ピエタ〉主題と図像系譜の調査、史料読解による宗教的機能の解明を行う。ヴェネツィアを中心に北イタリアに広まり、ヴィヴァリーニ工房で多数制作された。〈幼児キリストを礼拝する聖母〉との関連から、この主題が画面において聖母図像と結びつき、聖母が礼拝する姿で表わされるようになった背景について、とくに宗教的機能に応じて委託される主題の住み分けが行われていた可能性について、契約書や証書の一次史料を通じて制作の場のコンテクストを復元する。(5) 主題系譜についての整理と工房の社会的役割の解明:収集した作品データの分析と一次史料の読解から、ヴィヴァリーニ工房の作品を受容した社会的環境について、宗教的需要と機能の結びつきを踏まえて立体的に復元する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、今年度の計画を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成24年度請求額とあわせ、次年度に計画している海外調査をはじめ、以下の研究の遂行に使用する予定である。(1)基礎データの収集、(2)ヴェネツィアを中心とする各聖堂の祭壇画や礼拝堂設置の小板絵、各所に保管される絵画作品の現地調査、(3)同地に現存する聖堂関連の一次史料や典礼書の読解による同時代の宗教思想・制作背景と主題の関連の分析 期間全体を通じ、作品調査・関連基礎資料の収集という二つの項目を同時に進めながら、写真撮影や古文書の読解に際し、適宜同地の研究者にも協力を依頼しながら研究を遂行する。この間の研究成果を踏まえて国内での学会発表を行う予定であるため、その旅費および、論文ならびに報告書の形で内外に発信する。
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