本研究は、ベッリーニ工房とヴィヴァリーニ工房という15世紀のヴェネツィアにおける画家工房を研究対象に、制作の実態を主題分類から分析することを目的とする。ヴィヴァリーニ工房は、家族主体の体制のもとで祭壇画と小型礼拝用板絵を内外に注文主に向けて制作し、当時の絵画需要に大きく貢献した。しかしながら、ヴェネツィア美術の潮流を築いたヴィヴァリーニ工房の制作実態と図像選択の関係性、およびベッリーニ工房との関係性については、様式分析を主眼とした従来の研究では十分に解明されてはいない。そこで本研究では、地元の聖堂や信心会の注文による板絵の主題頒布を調査することで、両者の制作方法と実態を明らかにしようとした。方法として各々の主題がいかなる過程を経て選択、図案化されたのかという点に着目し、そこに工房が果たした役割および図像と社会的背景の関係を考察した。とくに以下の事例について現地聖堂にて作品を調査し、ヴェネツィア国立サン・マルコ図書館および市立図書館で聖堂・同信会に関する一次史料を収集、読解に努めた。まず1470年前後のバルトロメオ・ヴィヴァリーニへの作品注文の様相の考察を行った。そこで《聖アンブロシウスの祭壇画》に描かれた〈聖会話〉主題について、注文主の〈石材職人の同信会〉によって画家が選択された状況と図像の選択に関し、契約書をはじめ一次史料の読解を通して考察を行った。またアルヴィーゼ・ヴィヴァリーニらの〈幼児キリストを礼拝する聖母像〉の主題の頒布と図像系譜の調査を行い、その宗教的機能の解明に努めた。同主題が型となり繰り返し表された背景には都市ヴェネツィアの自己表象との結びつきがあること、またその祈念像としての性格との関連を指摘した。全期間を通じ、主題の機能や信心会の要求に応じベッリーニらと棲み分け、同時に共存した同工房の制作状況と当時の人々がそれぞれの画家に要求した図像系譜の構築を行った。
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