研究課題/領域番号 |
23720049
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
高橋 健一 和歌山大学, 教育学部, 准教授 (70372670)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 美術史 / 美学 / イタリア / 対抗宗教改革 / マニエリスム / ジャンボローニャ |
研究概要 |
画家・建築家・水道技師トンマーゾ・ラウレーティ(パレルモ1530年頃~ローマ1602年)が担当した事業のうち、本年度はおもに(1)ボローニャの《ネプチューンの噴水》(1563~1567年)、(2)ローマ、コンセルヴァトーリ宮殿の「諸隊長の間」のフレスコ画装飾(1587~1594年)について、研究をすすめた。まずは(1)について。その装置の図像プログラムがラウレーティに大きく負うことは、今日では共通して認識されているが、その頂上のネプチューンの着想はいまだ彫刻家ジャンボローニャに帰されている。報告者は今回、ボローニャ、ヴィッザーニ宮殿の「アレクサンドロス大王伝」の連作等、当該の噴水事業以前にラウレーティが実現した絵画について、現地調査をおこなうことができた。従来の研究ではあまり注目されてこなかったこれらの視覚資料を分析することで、当のパレルモ人美術家がその噴水の彫像の生成にも積極的に関与した可能性を考えた。そして(2)について。この一連のフレスコ画は「参照指示と引用の意識的な遊び」とも「すでによく知られて利用された形態やイメージのアンソロジー」とも(否定的に)評される。しかし、再度現地にて画面を詳細に観察することで、その美術史における意義をとらえ直すことを試みた。さらにその上で、そこに散見される特異な表現を生みださせた、思想的背景について考察している。 また、これらの作業の一方で、ラウレーティ関連の史料の調査・整理をおこなっている。特にヴァチカン図書館に所蔵されるフィリッポ・グアスタヴィッラーニ枢機卿の書簡は、ラウレーティのクロノロジー・人脈を再構成するために重要だが、従来未公刊だったので、複写を入手し、翻刻した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に予定していた作品・史料調査をほとんどこなすことができた。それらのデータの整理もすすんでいる。またその作業の結果、いくつかの新知見も得ることができた。上記の(1)ボローニャの《ネプチューンの噴水》、(2)ローマ、コンセルヴァトーリ宮殿の「諸隊長の間」のフレスコ画装飾について、それぞれ一本ずつ論文を執筆し、現在投稿にむけて準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
1570年代のラウレーティの活動についての研究にいまだ手がつけられずにいる。とりわけボローニャの聖堂サン・ジャコモ・マッジョーレの諸作品は、様式的にも図像的にも複雑な様相を呈している。画家のパトロンとの関係等を契機に理解を試みたい。また遠近法の実践家としてのラウレーティも興味深いが、従来あまり研究されていない。エニャツィオ・ダンティからの影響が多分に想定されるが、その点から検討を始めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
そのほとんどは、現地での作品・文書資料調査に使用する。多くのラウレーティ作品の写真をすでにボローニャの美術監督局写真アーカイヴで確保したが、いまだ足りないものもある。それらの調達にもいくらかを当てたい。また、必要な書籍もこの一部で購入するつもりである。
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