研究課題/領域番号 |
23720049
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
高橋 健一 和歌山大学, 教育学部, 准教授 (70372670)
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キーワード | 対抗宗教改革 / マニエリスム / アカデミー / イタリア |
研究概要 |
当該年度においては主として、トンマーゾ・ラウレーティの絵画作品にかんする基本情報の整理をすすめた。従来確保できていなかった写真を今回ローマの美術監督局附属の写真アーカイヴ等で入手した他、自ら現場で撮影してもいる。 同時に、ラウレーティの人脈については踏み込んだ調査・研究をおこなった。たとえば、その1570年代における最も重要なパトロンのひとりにフィリッポ・グアスタヴィッラーニ枢機卿がいる。その枢機卿が1581年の時点でラウレーティに宛てた3通の手紙の写し(現在ヴァチカン図書館所蔵)を精読することで、彼らふたりと数学者のイニャツィオ・ダンティとの交流の実態の一端を把握している。ヴァチカン宮殿のコンスタンティヌスの間にラウレーティが描いた《異教の偶像にたいする十字架の勝利》の図像プログラムの成立には、この3者の関係が作用しているものとみられる。 またラウレーティがアッカデミア・ディ・サン・ルカの第二代目の総裁としてはたした役割についても再考した。現在の同アカデミーの附属図書館・美術館ではいくつかの興味深い材料を見出している。今後の研究に役立てたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に予定していた作品・史料調査をほとんどこなすことができた。それらのデータの整理もすすんでいる。その作業の結果、いくつかの新知見も得ることができた。 ラウレーティが1587~1594年に実現した、ローマ、コンセルヴァトーリ宮殿の「諸隊長の間」のフレスコ画装飾については、前年度の時点で調査・研究をすすめ、その成果をひとつの論文としてまとめていたが、パヴィア大学が発行する雑誌『Artes』にそれを投稿したところ、掲載されることが決まった(現在印刷中)。 またボローニャの《ネプチューンの噴水》の実現のためにラウレーティがはたした役割にかんする論考を発表すべく、現在準備をすすめている。
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今後の研究の推進方策 |
ラウレーティの素描について詳しい調査をおこないたい。 一方で、ラウレーティが1570年代にボローニャの聖堂サン・ジャコモ・マッジョーレのために実現した絵画作品、すなわち《キリストの復活》を中央に置く三連祭壇画、そして《聖アウグスティヌスの葬儀》について、画家のパトロンとの関係等を契機に考察を試みたい。それらは様式的にも図像的にも複雑な様相を呈している。 また遠近法の実践家としてのラウレーティも重要だが、その側面についてはいまだ研究できていない。イニャツィオ・ダンティからの影響が多分に想定されるが、その点から検討を始めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
そのほとんどは、現地での作品・文書資料調査に使用する。ラウレーティの絵画作品の多くの写真をすでに確保したが、その収集はいまだ不十分で、とりわけ素描のものは欠けている。それらの調達にもいくらかを当てたい。また、必要な書籍もこの一部で購入するつもりである。
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