研究課題/領域番号 |
23720051
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
青木 加苗 京都市立芸術大学, 美術学部, 客員研究員 (70573905)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アードルフ・ヘルツェル / バウハウス / シュトゥットガルト / アカデミー / 抽象化 / 構成 |
研究概要 |
本研究は、アードルフ・ヘルツェルを中心としたグループに見られる、抽象化と構成概念の同時的発生を明らかにし、それがバウハウスへと組み込まれてゆく経緯を明らかにすることを目的とする。初年度はまずヘルツェルの理論を、画面内の構成に関する理論と色彩理論にわけて検討した。まず画面構成理論については、およそ1900年からの10年間に雑誌の記事として数本の論考が出版され、基本的な形が出来上がっている。実際の作品と照らしあわせてみれば、この出発点は主にダッハウにおいて展開された風景画の画面構成、つまりコンポジションについての理論であることがわかる。それが次第に造形の構成要素へと分解され、画面の平面性への意識が強まってくるとともに、コンストラクションへの意識へと移行し始めることを、理論の変化と作品での展開の中に確認した。一方、色彩理論については、ヘルツェルが自然科学分野の色彩研究者との強い結びつきを持ち、当時、芸術分野の色彩論者として主要な位置づけをされていたことが明らかになった。ヘルツェルの色彩理論の中には、ゲーテに集約される中世以来の色彩論から、シニャックに代表される新印象主義やシュヴルールの同時対比理論、さらにはヘルムホルツやフォン・ベツォルトらの自然科学的観察による視点が多数取り込まれていることが明らかになった。また現地調査において、ヘルツェルの遺品に日本の海外向け絵本等を発見した。これらの影響についてドイツにおける研究者グループは未だ着手できておらず、報告者の研究参加を期待している。形象の簡略化、シルエット化などとして実際に影響を与えたことも想像され、ヘルツェルの理論形成を明らかにする新たな手がかりも見つかっていることを報告する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
9月に行った現地調査においては、現在、アードルフ・ヘルツェル財団が置かれているヘルツェルの自宅を訪問、レーゲンスブルクではスケッチブックを含めた一次資料にあたり、両地において関係する研究者との面談を行った。ヘルツェル研究についての現地での進捗状況を直接確認し、報告者が行なっている研究の必要性に対しても高い関心と資料公開、助言等の援助を継続的に得ている。また、ダッハウでの調査では、初期の作品が生み出された土地を実際に調査し、同時期の作家たちについての情報も得ることになった。本年度はヘルツェルの造形理論について、当初の予定通り画面構成と色彩理論の2項目にわけて検討することができている。前者についての一部は、京都市立芸術大学紀要56号に発表した。後者色彩理論は、その源泉についてすべては明らかにしきれてはいないが、ヘルツェル理論の概観は見て取れるようになり、美学会西部会第287回研究発表会において発表した。更なる検討を加えて学会誌『美学』に投稿予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究内容の展開としては、本年度得られたヘルツェルの造形理論についての観点を、最終的に学生らの造形の中に確かめてゆく作業を行うため、まずは学生らの造形についての分析を行う。主要な学生としてはヨハネス・イッテンやオスカー・シュレンマー、ヴィリ・バウマイスター、オットー・マイヤー=アムデンがいる。図版化されている資料は大方入手できているので、実作品での確認を行うために、現地を訪問する。資料の所在はすでに確認できており、現地研究者とのつながりも多く得ているため、実際の検討に入るにあたり障害はない。現在、ヨハネス・イッテンがバウハウスで行った授業内容を引き継いで、それをさらに展開したジョセフ・アルバースの造形論、色彩論についても調査に着手している。それによって、にヘルツェルが与えた影響が、イッテンやシュレンマーら直接の学生にとどまるのではなく、バウハウスの根幹をなす造形概念として定着していた事実を、より具体的に明らかにすることができると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度、研究費のみ使用額が生じた理由は、震災等の影響によって、予定されていた研究費が全額交付されるかどうかがしばらく明らかにならなかったためである。よってコンピューター等の備品は出来る限り私費購入し、予定していた調査のための旅費を確保した。結果的に全額交付されたため未使用額として繰り越された研究費は、次年度の調査旅費が不足すると予想されるので、それに充てて使用する予定である。ヘルツェルの学生らの作品調査:シュトゥットガルト美術館アルヒーフ・バウマイスター、シュトゥットガルト美術館オスカー・シュレンマー・アルヒーフ、ベルン美術館を中心に、現物調査および、書簡等の資料を入手予定。ヘルツェルについての現地研究者が在籍するクンストフォーラム・オストドイチェ・ギャラリー(レーゲンスブルク)を再度訪問予定。その他、可能な限り、ヘルツェルの初期の足取りを辿る。
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