研究課題/領域番号 |
23720051
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
青木 加苗 京都市立芸術大学, 美術学部, その他 (70573905)
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キーワード | アードルフ・ヘルツェル / バウハウス / シュトゥットガルト / アカデミー / ヨハネス・イッテン / 国際情報交換 / ドイツ |
研究概要 |
本研究は、アードルフ・ヘルツェルを中心としたグループに見られる、抽象化と構成概念の同時的発生を明らかにし、それがバウハウスへと組み込まれてゆく経緯を明らかにすることを目的とする。初年度にはヘルツェルの造形理論を、画面内の構成に関する理論と色彩理論にわけて検討した。それを踏まえて二年目となった本年度は、ヘルツェルを中心としたアカデミー学生らのグループと、その形成に寄与したと考えられる当時のシュトゥットガルトの美術状況について検討した。 この学生グループは、彼らが展覧会を機に命名したヘルツェル・クライス、すなわちヘルツェル・サークルと呼ばれている。彼らの中からは当時の前衛的な芸術家が多く生まれ、そのうちの何人かがバウハウスに関わり、その芸術的方向性をも左右するほど、重要な役割を果たすことになった。よってこのヘルツェル・サークルとはいかなるものであったのかを明らかにすることが、学生らの活動とその成果を考える上では、基礎となるべき検討項目となった。 結論として、そこにはヘルツェル・サークルが活動した、当時のシュトゥットガルトという都市の環境が、大きな影響を与えたことが明らかになった。というのはこの時代、芸術家グループは数多く生まれていたとはいえ、ヘルツェル・サークルはアカデミー教員であり、いわば師弟関係にあるグループが「サークル」として位置づけられるのは、異例というべき事象であったからである。つまりそこには他の自主的な芸術グループとは異なる、何らかの生成要因があったと考えられた。それを研究者は、シュトゥットガルトという都市環境に求め、当時の美術界の状況と、ヘルツェルと学生らが与えられた環境を検討することで明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は2度の現地調査を行った。1度目の9月には、シュトゥットガルト美術館併設のバウマイスター資料館にて、ヘルツェルの学生であったバウマイスターの一次資料にあたり、またアードルフ・ヘルツェル財団や、シュトゥットガルト州立美術館のヘルツェル・資料館に保管されている書簡、日記、スケッチ等を調査した。その他、ドイツ国内の美術館等において、ヘルツェル・サークルに関連する作品資料を探した。いずれも資料の収集という点においては遅れているわけではないが、ヘルツェル自身の資料が膨大であり、学生らの作品を検討する時間が目指すほどは確保できなかったというのが現状である。しかしながら京都市立芸術大学紀要57号には、ヘルツェル・サークルの形成に関する論文を発表することができた。 2度目の1月には、日本美術が近代美術に与えた影響について、ヘルツェルを中心にとりあげた展覧会を中心に調査した(Kirschbluetentraeume: Japans Einfluss auf die Kunst der Moderne, Kurpfaelzisches Museum der Stadt Heidelberg, 2012-2013)。ヘルツェルの造形観や平面化の傾向には、当時の芸術家たちの例にもれず、確かに日本美術の影響があるが、その検証方法には問題点も散見された。このテーマは研究者自身が後々に取り組むよう、ドイツの研究グループから期待されている領域であり、すでに着手し始めた。 本来なら今年度後半は、学生作品の検討に時間をさく予定であったが、上述した新たな検討領域が生まれたこともあり、全体としてはやや遅れている。ただし昨年度、本年度、そしてその間の継続的な意見交換により、現地研究者グループとの関係は、さらに広がりを見せたとともに、強固になりつつあることは自己評価できるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
今年度中に十分に検証できなかった学生らの作品を、まずは、より具体的に検討し、出来る限り明らかにする。特に、バウハウスで活動したイッテンとシュレンマー、そしてシュレンマーと一面では酷似する造形観を示しながらもバウハウスのメンバーとはならなかったバウマイスターは、最優先で取り上げる作家と位置づけている。彼らの作品をヘルツェルの造形理論との比較検討によって検証する。 また、今年度の研究作業で明らかになったハンス・ブリュールマンやヘルマン・シュテンナーらも、より直接的にヘルツェルの影響を受けた作家たちとして位置づけられるだろう。彼らをバウハウスのメンバーらとの比較材料として取り上げるとともに、彼ら自身の芸術的成果についても、光をあててゆければと考える。 こういった検証作業を通じて、最終的には、本研究の大テーマである、抽象化の過程において構成という概念が同時発生的に芽生えていた事実を明らかにし、その成果を公開する。
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次年度の研究費の使用計画 |
秋頃には、これまで調査で出向いているバウマイスター資料館が中心となって、シュトゥットガルト美術館で大回顧展が開かれる予定となっているので、この展覧会調査に出向くことが第一の具体的な計画である。また初期のヘルツェルの活動に関して、ウィーンでの調査も計画をしている。これについては、現地研究者グループの勧めもあって、ヘルツェルの初期活動について詳しいアレクサンダー・クレー氏との面談が設定されることもあり、本研究および研究者の今後にとっても重要な機会となるはずである。よって研究費は主に旅費で使用することになる。
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