本研究は、中国で生まれた最大の宗教である「道教」における礼拝対象となる偶像=道教像を対象とするものである。道教像の萌芽期である南北朝時代(5-6世紀)におけるその出現と展開・変遷・地方性の諸相について明らかにし、これまであまり注目されることがなかった美術史研究における新たなジャンル「道教の美術」の構築と発展に寄与することを目的としている。 今年度は、湖北省博物館で開催された中国国内としては初となる大規模な道教美術展「道生万物―楚地道教文物特展」をはじめとして、昨年度に引き続き道教美術に関する情報、図録・報告書、論文の収集につとめ、中国南北朝時代の道教像及び関連仏像のデータと図版を増補集成した。 これを踏まえ、河南省洛陽市博物館、偃師商城博物館、河南博物院などにおいて、河南省の洛陽および偃師周辺から出土した石造道教造像と関連作品の調査を行った。そのなかで北斉・道民大都宮主馬寄造像碑の主尊坐像が伴う凭几の形状と、北斉武平七年(576)銘・孟阿妃道教造像碑の主尊坐像が伴う凭几の形状について細部の検討を行い、河南省中部において山西省西南部や陝西省西安とその近郊に分布する道教像とは異なる図像的展開があったことを確認した。 また本研究の成果をひろく一般の方々に公開するため、大阪市立美術館における平常展・中国彫刻のなかで北魏延昌四年(515)銘石造道教三尊像(大阪市立美術館所蔵・山口コレクション)や関連する北魏永平三年(510)銘石造三尊像(個人蔵)などを展示し、これにあわせ、道教像の出現についてまとめたリーフレット『―道教像の出現とそのすがた―』(A4判型)を執筆・発行した。
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