研究課題/領域番号 |
23720059
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研究機関 | 京都造形芸術大学 |
研究代表者 |
杉崎 貴英 京都造形芸術大学, 芸術学部, 非常勤講師 (30460744)
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キーワード | 長谷寺縁起 / 長谷寺形(長谷寺式) / 仏師稽文会・稽主勲 / 春日本地説 / 造像譚 / 霊験仏 / 興福寺南円堂 / 模像 |
研究概要 |
本年度は、長谷寺本尊ことに中世再編の縁起とそこに語られた造像譚に重点をおき、かねて進めていた言説(及びその絵画化)の面からのアプローチを中心として調査研究をおこなった。中世の霊験仏に関する縁起では、一般に専業仏師による造像過程が述べられることは稀である。そのなかで長谷寺縁起に関しては、固有名を伴う古代の仏師(稽文会・稽主勲)による造像譚と、彼らを神仏の化身とする言説が注目される。縁起の再編や、春日社・興福寺との関係といった背景に加え、彼らの史的実在性の稀薄化なども前提として考えられる。また、中世再編の長谷寺縁起からの影響が指摘できる誓願寺縁起・矢田地蔵縁起、さらに縁起成立時において直近の過去に実在した運慶が登場する頬焼阿弥陀縁起、仏師定朝による造像が語られる壬生地蔵縁起などを参照することで、長谷寺縁起における造像譚の特色はより鮮明になると考えられる。以上に関しては、年度前半に日本宗教文化史学会大会にて口頭発表する機会を得た。またその際、配付資料として発表で論じた範囲に関する史料集を編集作製した。 本年度後半には、遠隔地所在の作品・資料の調査を実施できた。①長谷寺(鎌倉市)では、同寺宝物館のご協力のもと、紙本着色長谷寺縁起絵巻(上・中巻)及び紙本墨書長谷寺縁起文の実査をおこなった。②群馬県立歴史博物館では、前記の長谷寺本との一具性が指摘されている紙本着色長谷寺縁起絵巻(下巻、同県白岩山長谷寺旧蔵)の実査をおこなった。③月山寺(茨城県桜川市)では、昨年度中に所在を知り得た絹本着色不空羂索観音像(南円堂形)の実査をおこなった。①は近時に確認され、平成25年度末には鎌倉市指定文化財となった未公刊の資料であり、本研究に関して全巻の把握をなしえたことは有益であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初から進めていた言説面のアプローチに関し、日本宗教文化史学会での口頭発表という形で、中間総括・アウトプットの機会を本年度の早い時期に得ることができたことは幸いであった。これにより、美術史をはじめ、宗教史・中世説話文学など、宗教文化史に関わるさまざまな分野の研究者から、史資料の示唆を含む多くの助言を受けることができた。 また、年度後半の実施となったが、既往の公刊図書類では図版資料が乏しかった作品や未紹介の資料について、遠隔地に所在する作品・資料調査を実施できたことも大きな成果であった。また実施は次年度に先送りとせざるをえなかったものの、所蔵者の許諾など、いくつかの実査の懸案について進展をみることができた。 ただし本年度中盤において、企画展委員の委嘱を受けて関わった地域博物館展示の構想及び図録執筆・編集その他の作業に多くの時間を費やさねばならない期間が発生した。このため本研究課題に関しては、しばらくの間、停滞やむなきに至った。 しかしながら当該の展覧会においても、本研究における再受容・再定義という視点の適用・応用をなしえたといえ、美術史・中世史・宗教史などの研究者から評価・助言を受ける機会ともなったことなど、その成果は本研究にも循環する有益なものであったことは付記しておきたい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査研究成果の整理(文字及び画像データ入力と編集・再構成作業)を、年間を通じておこなう。また、懸案となっている作品・資料の実査を、近隣地域に比重をかけて可能な限り実施するほか、所蔵者側の事情などにより実査のかなわない作品・資料を中心に、精細な写真図版あるいは画像情報の入手を進める。また、平成25年度までの成果について論文あるいは資料紹介などの形式での発表を随時図ることとしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予想を大きく上回る数の史資料が認識されたことに加えて、平成25年度までの作品・資料の実査予定のうち、所蔵者側の事情(作品の保存修理や施設の改修工事、あるいは所蔵者の異動等)及び日程調整の困難等の事情から、実施を平成26年度に先送りせざるを得ない懸案が多く残されることとなった。 さらに平成24・25年度における単年度の臨時的業務に関し、当初の予定・予想に数倍する作業量が継起したことも、当該年度内の計画的遂行に少なからぬ支障となった。この結果、当初予定の研究期間であった平成25年度末までに未使用額が発生し、研究期間の延長を申請した。 史資料に関する資料・情報の入手(図書類・紙焼写真・画像データ・文献複写等)と資料集製作に向けてのデータ入力及び編集・再構成作業を引き続き行うほか、平成25年度末までの成果の成稿あるいは口頭発表を行う。また、平成25年度末までに積み残しの懸案となっていた作品・資料の調査を可能な限り実施する(既に所蔵者・協力者への打診を進め、懸案のうちいくつかについては書面の許諾あるいは内諾を得ている)。作業及び調査に際してはアルバイトあるいはアドバイザーの委託を含む、主として以上の課題に係る経費に、未使用額を充てることとする。
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