本年度は、これまでの調査研究成果の整理と、未入手の文献資料の収集を年間を通じておこなった。 また、既発表の旧稿に関する補足的調査研究として、興福寺・笠置寺や春日本地説など、解脱房貞慶に関わる部分についての探索と再考を進め、その一部を成稿し発表した。また貞慶と交流を有した俊乗房重源に関わる資料の再吟味もおこなった。 資料調査の収穫としては、(1)長谷寺(大阪府堺市)所蔵の和泉長谷寺縁起絵巻(室町時代、大阪府指定文化財)3巻と、(2)白鶴美術館(神戸市)所蔵の春日本迹曼荼羅をはじめとする春日曼荼羅4幅を挙げておきたい。これらについては公刊されている図版類がほとんどなく、詳細な実査をなしえたことは有意義であった。 副次的成果として、法隆寺仏生会および上宮王院修正会などの現行の儀礼の観察や、中世における法隆寺・橘寺とその安置仏像の消息についての探索をおこなうなかで、本研究に関し新たな視点を得ることができた。 また、長谷寺式十一面観音像の中世における南都文化圏以外での展開についてもひきつづき探索を進め、とくに古例に属し保存状態の良好な宝樹院(愛知県常滑市)十一面観音像の熟覧は大きな収穫となった。ただし彫像については秘仏開扉日程等の事情で実見を断念せざるをえない場合が多く、また画像については図書類により新たな作例を知り得たものの、所蔵寺院の代替わりなどにより所在不明になっているものもあり、なお今後の課題として残った。
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