研究課題/領域番号 |
23720061
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研究機関 | 公益財団法人徳川黎明会 |
研究代表者 |
龍澤 彩 公益財団法人徳川黎明会, 徳川美術館, 学芸員 (00342676)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 日本美術史 / 絵巻・絵本 |
研究概要 |
平成23年度は次のように研究を実施した。【作品調査】「太平記絵巻」(国立民族博物館蔵)・「うたたね草紙」(国立民族博物館蔵)・「平家物語画冊」(根津美術館蔵)・(アメリカ)イエール大学芸術資料館「烈女伝絵巻」「源氏物語図色紙」・(アメリカ)コロンビア大学図書館「浦島太郎」・(アメリカ)メトロポリタン美術館「源氏物語絵巻」・(アメリカ)バーク財団「熊野の本地絵巻」「藤袋草紙」「周茂淑愛蓮図」(海北友雪筆)「吉野図屏風」・(アメリカ)ウェバーコレクション(個人蔵)「三十六歌仙絵巻」・(アメリカ)ニューヨーク公立図書館「岩屋」「隅田川」「小敦盛」「文正草紙」「松風村雨」【論文刊行】「徳川美術館蔵「平家物語図扇面」について」(『武家の文物と源氏物語絵』所収、翰林書房 二〇〇一二年三月十五日) 平成23年度は、絵屋研究の一環として「太平記絵巻」および海北友雪の落款のある「周茂淑愛蓮図」、大名家における絵本受容に関する参考作品として「平家物語画冊」(根津美術館蔵)(尾張徳川家伝来の平家物語扇面画帖と同類)および、中近世移行期における絵巻の変遷の考察のため、在米作品を中心とする作品調査を行い、アメリカ調査の際には各所蔵先の研究者との情報交換も行った。また、メトロポリタン美術館で開催の「Storytelling in Japanese Art」展も見学し、東海岸を中心とする在米の絵巻・絵本を集中的に観覧した。許可が得られた調査先では写真撮影を行い、画像を蓄積することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、根津美術館での「平家物語画冊」調査をふまえて、「徳川美術館蔵「平家物語図扇面」について」(『武家の文物と源氏物語絵』所収、翰林書房 二〇〇一二年三月十五日)を執筆、発表した。徳川美術館所蔵作品は詞書を伴わないが、根津美術館での調査により、どのようにテキストが絵画化されているかについての考察を行った。また、両作品を比較することによって、同一の粉本を用いて描かれたと考えられる扇面画が、さまざまな形態で販売されていた様子が伺え、17世紀前半の絵本の享受について多角的な視点をもつことができた。また、23年度は、国内では実見することのできない在米作品の調査を集中して行った。コロンビア大学の「浦島太郎」にも江戸時代の箱が添っており、箱書が確認できた。これは従来、「西包禎翁様 為御進物以御使者 被進」と解されてきた(林晃平「所謂御伽草子「浦島太郎」の展開 ―近年における諸本研究とその行方をめぐり―」『苫小牧駒澤大学紀要』第24号、2011年12月)が、実見すると「西郷禎翁様 為御遺物以御使者/被進」と読むことができ、「禎翁」が18世紀前半の大名西郷忠英(1764年歿)を指し、本の制作年代は18世紀初頭か、あるいは17世紀後半ではないかとの知見が得られた。所有者がわかる奈良絵本の例は貴重で、大名家における受容を考える上でも重要な作例として位置づけられる。これらについては、今後論文としてまとめたい。23年度は、年記のある作品(ニューヨーク公立図書館蔵「隅田川の草子」元和4年)をふくむ、本研究で対象とする中近世以降期の絵巻の様々なタイプを調査した。次年度の作品と合わせて分析し、絵巻・絵本の変遷を考える指標をつくっていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度には、アメリカ・スペンサーコレクションを中心として24年度に行う予定であった16世紀前後の作品調査を前倒しで行った一方、国内調査についてはやや計画より遅れているため、平成24年度には、大名家コレクションの整理に重点をおきたい。尾張徳川家に関しては、蔵帳からの関連作品のリストアップを進めているところであるが、24年度には他家の所藏品についても情報収集にあたる。蔵帳などの江戸時代にさかのぼる史料にあたれない場合も多いため、明治・大正期を中心とする売立目録を参照し、家ごとに関連すると思われる作品をリスト化し、蔵書を考える参考としたい。また、中近世移行期の絵本の変容という観点から、この時期に複数の作例が現存する「鼠草子絵巻」を考察対象とする。同絵巻群は、特に江戸期には婚礼調度としての需要があったと考えられ、大名家の絵本受容を考える上でも重要である。作例としては、天理大学附属天理図書館所蔵本(16世紀)・サントリー美術館所蔵本(16世紀)・東京国立博物館本(16~17世紀)・篠山市立青山歴史村所蔵本(製作は17世紀か)があり、可能な限り調査を行いたい。 また、研究計画では25年度に中心に行う予定となっている17世紀前半の奈良絵本の調査についても、24年度より視野に入れて行っていきたい。17世紀に奈良絵本の形で絵画化された物語(画題)の種類についても検討し、『竹取物語』のように、物語の成立年代が古い場合であっても、絵画の現存作例は17世紀以降という作例を取り上げ、この時代に新たに、奈良絵本という媒体によって「古典」が復興されるという動きがあったのではないかという問題についても検討していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
調査に必要な備品の購入はほぼ23年度で終えているため、24年度・25年度の研究費は、主に書籍・写真資料購入と作品調査・資料収集にあてる予定である。23年度は申請時の予算より低価格で消耗品を購入したり、作品所蔵先の都合により調査が実施できなかったことなどにより、59262円の繰り越し金が生じたが、これについては24年度に行う調査の旅費として使用したい。24年度は、展覧会図録や書籍・画像データ等の購入費として200000円を計上、作品調査(国内8回・海外(韓国)1回)および学会・研究会参加のための旅費等558000円を計上している。調査については、作品所蔵先の都合により実施できない塲合も考えられるため、その場合は画像資料の購入に研究費を使用したい。
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