本課題は、江戸時代の上方を中心とした寄合描きの諸相を解明すること、ならびに作品のデータベース化を行うことを目的とし、本年度は下記の成果を得た。 (1)前年度に引き続き、展覧会図録や美術図書を参照し、寄合描きの作例抽出を行った。その結果、関東から九州において制作された作例を約30点ほど確認することができた。 (2)個人所蔵家が所有する寄合描きの調査を行い約20点ほどを実見した。その中には浦上玉堂が江戸滞在中に他の人々と手掛けた作品があり、玉堂の経歴に新たな一条を付加することができる作例として注目される。また、生野代官であった白石忠太夫と生野銀山の地役人や掛屋らによる作例を確認した。これからは江戸と地方の文化的交流がなされる際に寄合描きという形式が取られていたこと、また地方の絵画愛好者が、江戸の幕臣の画技を嘱目する機会があったことが明らかになった。 (3)従来知られていた寄合描きへの参加者としては、職業絵師が大部分を占めるが、本研究過程において公家、豪農・富商らによる作例を確認し、作者の身分的広がりが明らかにしてきた。本年度は、これまで画業が知られていなかった代官クラスの幕臣の作例を把握し、大名や旗本などの高位の武士以外にも絵を嗜み、絵を介して他者と交流する人物がいたことが明らかになった。 (4)現在では「寄合描き」作品は「合作」と称されることが多い。しかし、合作が自己会心の作をさす用語であることを明示する資料を見出し、用語の用法について改めるべき根拠を確認した。
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