〔目的と手段〕中国・五代十国時代(十世紀)に制作された金属工芸について、美術史における検証を行う為の基礎的な資料データを作成することを主目的とした。その手段として、制作年代や背景が明らかな現存作例や推定可能な作例を中心に実地調査を行い、また、文献など史料の収集及び分析を進めた。これらのデータを基にして、中国及び日本・韓国を含めた東アジアの工芸作品との比較検証を行い、工芸分野における文物の交流や技術の伝播・受容を明らかにするための基礎的な調査とするためである。 〔具体的な研究内容〕実地よる作品の調査を重視し、中国浙江省周辺を中心に実地調査を各年度に分けて精力的に行った(平成23年度:中国・浙江省博物館、安吉県博物館、良渚博物館、平成24年度:中国・杭州博物館、南宋官窯博物館、寧波博物館、首都博物館、上海博物館、蘇州博物館、平成25年度:臨安市文物館、無錫博物院、韓国・慶州、日本・九州国立博物館、高麗美術館、和泉市久保惣記念美術館、平成26年度:イギリス・大英博物館、V&A Museum、中国・南京博物院、山西博物院、山西省芸術博物館など)。その際には現地の博物館研究員と共同で調査を行い、研究交流を深める他、史料・資料の蒐集に努めた。 〔意義・成果〕研究の少ない分野であった十世紀の金属工芸作品について、工芸技術の高い地域であった江南の浙江省を中心に、王族などの墳墓出土品を主とした調査を行うことで当時の一級品の技術・様式の水準を把握することができた。集積したデータを基に研究は進行中であるが、調査研究の成果については、所属する公益財団法人大和文華館での展覧会(特別企画展「煌めきの美-東洋の金属工芸-」平成26年1月5日~2月16日)等に反映させている他、中国・浙江省博物館主催の国際シンポジウムにて研究発表を二度行い(平成23年9月、平成26年11月)、その研究成果の一部を公開している。
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