平成26年度は,打楽器を用いたアンサンブル演奏における演奏表情と情動体験の関連を測定した。パーカッションを伴奏とし,伴奏の演奏表情に変化を付け,演奏者はどのような情動を体験し,またどのような演奏表現が生み出されるのかを検討した。 この実験では,Schinstine作曲のボディパーカッション曲 "Rock Trap”を題材とし,二名の演奏者用に短く編曲したものを課題とした。実験課題の一方のパートを伴奏とし,プロの打楽器奏者に様々な演奏表情で演奏してもらった。これらの伴奏に合わせて,被験者にもう一方のパートを演奏させ,演奏データと情動評価を合わせて取得した。情動評価は「演奏中に体験した情動」と「伴奏の印象」を情動二次元モデル(感情価と覚醒度の二軸からなる)を用いて測定した。演奏データからは,演奏のタイミングと音量の変化を解析し,演奏表情の指標とした。音楽経験を有する8名が実験に参加した。 情動評価に関しては,テンポが早く,演奏表情ありの伴奏のとき,演奏者が体験する情動において,覚醒度のみが大きくなる傾向となった。また,表情ありの場合に,伴奏の印象における覚醒度のみが高くなる傾向となった。演奏データに関しては,表情あり伴奏のとき,演奏の時間的な揺らぎが大きくなる傾向が見られた。まとめると,演奏表情あり伴奏では,演奏者はより大きな覚醒度を感じ,より大きな時間揺らぎを伴う演奏を行っていることが観測された。つまり,伴奏の演奏表情が,より表情豊かな演奏と情動体験を喚起していると言える。 以上の実験は,心理実験の手法と音楽情報科学の手法を組み合わせることで,可能になった。楽器演奏における感情や演奏表情のやり取りの様相を明らかにする上で,非常に有益な基礎研究であり,今後,より多人数の演奏や,他の演奏形態における情動体験の研究に発展していく見込みである。
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