研究課題/領域番号 |
23720081
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新藤 浩伸 東京大学, 教育学研究科(研究院), 講師 (70460269)
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キーワード | 国際情報交換 / アメリカ / 生涯学習 / 社会教育 / 文化政策 / 文化施設 / 博物館 / 文化団体 |
研究概要 |
(1)文化政策、生涯学習政策における市民活動支援プログラムの調査、(2)高等教育機関を含めた民間の文化活動支援ネットワークの調査、(3)劇場の教育プログラムの調査という三つの観点から調査を行ってきた。(3)の調査項目に関しては、博物館や公民館、図書館等も含め幅広く「文化施設」としてとらえなおし、地域において文化的な活動を行う生涯学習基盤としての場所のあり方に関する調査へと深めていくこととした。 年度前半は主に基本文献を通じた基礎調査を実施し、その成果は論文および学会発表等にまとめた(別項参照)。 年度後半は、予定していた米国調査を3月に実施した。調査対象を博物館に比重をおいたことで当初計画からはやや変更をしつつも、ボストン美術館、アメリカン・インディアン博物館等スミソニアン協会関連博物館、カーネギーホールローズミュージアム、ニューヨーク自然史博物館等を訪問し、インタビュー調査等を行なった。予定していたニューヨークのコミュニティアート団体は調整がつかず訪問できなかったが、担当者と連絡を取りメール調査を行うこととした。 アメリカでは、前年度調査したイギリスと比較すれば当然ながら制度や規模、支援の枠組み等異なるが、劇場にせよ博物館にせよ、その歴史およびコレクションを見せる工夫やこまやかな配慮が大変充実しており、参照しうる点は大きい。また、アメリカン・インディアン博物館にみられたような歴史民俗の展示から、非日常空間を楽しむにとどまらず、日常生活における知もどう文化施設において活用し、後世に伝えていくかという課題意識を強く持った。今後の調査に反映させていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は以下の理由から、当初の計画以上に進展している。 第一に、計画段階よりもさらに多様な調査対象を得て、それらの対象とのネットワークを形成し、より多様な施設の調査が可能となった。国内においても、学会発表だけでなく、東京大学学際情報学環UTalk(2012年4月)、野田市南部梅郷公民館(2012年7月)、西東京市田無公民館(2012年10月)全国公立文化施設協会主催公文協セミナー(2013年2月)、全国美術館会議教育普及研究部会会合(2013年3月)等で講師を行い、公民館、劇場、美術館等各施設とのネットワークが構築されつつある。 第二に、計画段階では「劇場」にのみ限定していた視点を、既述のとおり「文化施設」とすることで、調査課題をより深めることが可能になっている。MLA(図書館、博物館、文書館)あるいはMLAK(K=公民館)、MALUI(U=大学、I=産業)といった文化施設間および周辺領域との連携が叫ばれている。また、日本においては各文教施設の制度的枠組みの見直しや改革も進んでいる。そうしたなか、研究の枠組みも施設ごとの縦割りで設定してしまうことは、従来の議論を再生産し、その結果文化施設の機能を狭めることにもなりかねない。 第三に、これまで報告者が実施してきた研究との接続がより深くなされ、体系的な知見を得る事ができた。報告者は現在「学習を基盤とする持続可能で価値多元的な社会モデルの構築」(研究代表者牧野篤、科研基盤研究C、平成24~26年度)に研究に参加している。主に近代西洋文化の制度を調査する本調査と並行し、日常生活のなかで営まれている知を、公民館や博物館等を拠点にどう循環させていくか、そのための方策を探っている。これらの関連調査とあわせ、「今後の研究の推進方策」に記した文化を学び、支えることについて考察を深めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、年度前半で最終調査事項の精査および確定、追加文献の収集(4~6月)、追加文献検討による実態調査・分析・整理をする(7~9月)。年度後半で海外調査を行い(ベルギー等ヨーロッパ)。Culture Action for Europe等文化団体、文化施設等への訪問およびヒアリング調査を予定している。適宜関連学会で成果報告を行なっていく。 本調査は、劇場を中心とした近代西洋芸術制度の研究から、それ以外の多様な施設の問題をみすえながらも、たんなる調査型の研究や課題解決を越えて、課題をほりさげる探索的調査へと発展をみせていることが特筆すべきことである。すなわち、グローバル化のなかで、課題をアジアも含めて共有する調査へと、また、近代芸術の制度だけでなく、前近代の文化や生活習俗も含めた知を現代のなかにどう位置づけていくか。これからはこれらの課題意識とも接続させながら、文化を学ぶ人、場所、それを支える環境についてより考察を拡げ、深めていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
追加文献および必要機材、成果報告書作成等のための物品費(20万円)、調査および学会報告等のための旅費交通費(45万円)、調査データ集計のためのアルバイト謝金等(5万円)を計画している。
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