研究課題/領域番号 |
23720083
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研究機関 | 武蔵野音楽大学 |
研究代表者 |
赤塚 健太郎 武蔵野音楽大学, 音楽学部, 講師 (10528821)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 舞踏史 / 音楽史 |
研究概要 |
手稿舞踏譜のみによって伝承されているバロック時代の振付に対する比較検討のモデル・ケースとして、舞踏譜《ラ・ボカンヌ》を選出し、同振付に対する手稿舞踏譜を収集・比較した。さらに、資料収集過程で見出された同振付の伴奏舞曲を記した楽譜資料についても収集・比較した。 その結果、従来資料間の差異を無視したまま画一的に語られることが多かった舞踏譜《ラ・ボカンヌ》について、資料に対する批判的な考察に立脚した議論が可能となった。 具体的に比較を行った資料としては、舞踏譜については筆写者及び成立年代不詳の手書きの資料2点が挙げられ、さらにこの振付の伴奏舞曲を収録した資料としてはM.メルセンヌの『音楽汎論』(1636年出版)、A.D.フィリドール編纂の手稿舞曲集(1695年成立)、さらにA.ポワンテル編纂の舞曲集(1700年出版)の3点が挙げられる。ただし舞踏譜にも伴奏舞曲は書き記されているため、舞曲の比較においては合計で5点の資料が存在することになる。 舞踏譜資料の比較からは、両者がともに内容的な誤りを持ち、資料の信頼性という点では甲乙付けがたい存在であること、さらに両者に共通した明らかな誤りが存在するため、両者の筆写元を遡ると同一の資料に行き着く可能性が高いことが判明した。一方、伴奏舞曲については、メルセンヌの資料からポワンテルの資料へという伝承経路と、メルセンヌの資料から2点の舞踏譜、さらにフィリドールの資料へという伝承経路が確認された。さらにこの変遷の過程で、各小節の3拍目に付点四分音符と八分音符を組み合わせたリズム型を用いる頻度が上昇していることも確認された。このリズム型は、クーラントで用いられるパ・ド・クーラントという定型的なステップと対応するものであり、ここからこの定型的ステップが17世紀を通じて広まっていったという推論が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究対象となる舞踏資料を保存しているフランス国立図書館からの複写資料の取り寄せに時間がかかっており、本来の予定よりも研究の進度はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
研究対象である手稿舞踏譜の複写の取り寄せを完了させることが研究の第一段階であり、続いてそれらの手稿舞踏譜をフランス国立図書館で実見することが研究の第二段階である。これらの段階を通じて手稿舞踏譜間の比較作業を行う。中でも、同一の振付を記した複数の手稿資料を検討することにより、資料の伝承に関する有益な情報が得られると期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の使用目的は、主として2つに分かれる。一方は複写資料の取り寄せにかかる費用であり、もう一方は、資料を実見するためのフランスへの渡航費用である。
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