研究課題/領域番号 |
23720086
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大傍 正規 早稲田大学, 付置研究所, 助手 (40580452)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 無声映画の音 / 喜劇映画 / 帝政期ロシア / フランス・パテ社 / 初期映画研究 / 日本映画 / 比較映画史 |
研究概要 |
本研究は、帝政期ロシアにおいて発行された102種類にも及ぶ蓄音機・映画雑誌を網羅的に分析することで、第一次世界大戦以前に世界の初期映画興行の9割近くを占有し、世界各国の映画製作に少なからぬ影響を与えたフランス・パテ社やゴーモン社の製作する喜劇映画や芸術(文芸)映画が、帝政期ロシア映画の製作と興行に与えた影響を解明することにある。フランス・パテ社の提供する無声の芸術映画や喜劇映画が様々な「音」(ピアニストによる伴奏、オーケストラ伴奏、蓄音機、音響効果)と共に受容されていた点を踏まえ、フランス製の無声映画の「音」が帝政期ロシア映画にもたらした波及効果について解明を進めている。 本年度は、米・仏・露における帝政期ロシア映画研究に関する「文献目録」を作成した上で、日本国内の研究機関未所蔵の重要文献『映画学紀要Киноведческие записки』1-25号を入手し、研究基盤を整備した。さらに、研究発表「ソヴィエト映画の出発点―帝政期ロシアにおける初期フランス映画と音の共鳴」(日本映画学会第7回全国大会、2011年12月)を行い、フランス製の無声の喜劇映画が革命前のロシアにおいて音と共に受容されていたことを指摘した上で、そうした事実が、ソビエト映画の出発点においても、重要なモメントとなっていたことを明らかにした(一例を挙げれば、ソビエトを代表する映画作家ジガ・ヴェルトフはパテ社製の芸術映画を仮想敵としながらも、演出技法という点で多くをパテ社の喜劇映画から学んでいた)。さらに、比較映画史という観点から、国際学会SCMSにおいて、研究発表「Before Reimei: Early Attempts to Produce Talking Japanese Cinema through the Phonograph」(2012年3月)を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究対象が、帝政期ロシアにおいて発行された蓄音機・映画雑誌102種類と広範に渡り、研究発表を学術誌に投稿する時間が確保できなかった点は大いに反省をしている。2011年度の文部科学省「特色ある共同研究拠点の整備の推進事業」(A09351900/早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点)の公募研究課題「帝政期ロシア映画関連資料の多角的研究」の研究代表者としてモスクワ出張を行った際に、当初は50種類とみなしていた映画雑誌群が、実は102種類にも及ぶことが判明し、計画の修正を迫られたためである。とはいえ、世界的に1914年以前の映画雑誌の残存率は極めて低く、102種と残存率の高い帝政期ロシアの映画雑誌群を分析することで、帝政期ロシアにおいても初期フランス映画が主要な位置を占めており、それらが帝政期ロシア映画の変容に大きな役割を果たしていたことを、世界に先駆けてより実証的に解明することができるだろう。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、帝政期ロシアの蓄音機・映画雑誌を中心に綿密な文献調査を行なう。先述したように、1914年以前に世界各国の映画市場を席巻していたのは、主としてフランス製の喜劇映画や文芸映画であった。この二大映画ジャンルが世界各国の映画製作の礎を築いてきたことは、これまでも知られて来たが、当時の映画雑誌の残存率は極めて低く、その変容過程が詳細なデータを裏付けとして示されたことはなかった。それゆえ本年度は、残存率の高い帝政期ロシアの映画雑誌群に掲載されている作品データを分析することで、初期フランス映画が帝政期ロシア映画に与えた影響について実証的に明らかにする。さらに、現存する初期フランス映画と早稲田大学演劇博物館が所蔵する帝政期ロシア映画(AV資料)の視覚的特徴を比較検討し、美学的なレベルで帝政期ロシア映画の変容を跡づける。 また、前年度のモスクワ出張に引き続き、ロシア国民図書館(ペテルブルク)に調査出張を行なう事で、前年度の調査出張で把握できなかった収集データの地域間の差異を明らかにし、加えて現地で閲覧が可能な文献資料や新聞記事の調査も進め、前年度の調査との綜合を行う。また、国際的な研究成果の発信として、初期映画研究の発祥地、イギリスのブライトンで開催される学会Domitorで研究発表を行ない、その後に外国語論文を執筆する。日本国内では『映画研究』、『映像学』等の学会誌で研究成果を公表し、日本映画学会(12月)において2年目の研究成果を発表する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初は初年度に予定していたモスクワ出張だが、上述の公募研究の研究代表者としてモスクワ出張を行ったため、175,579円の残額が生じた。これは本年度に国際学会Domitorで研究発表を行うための渡航費として使用させて頂きたい。 本年度は1075579円を研究費として請求させて頂くが、その内訳は以下の通りである。(1)海外旅費(イギリス、ブライトン、国際学会発表)25万円、(2)海外旅費(ペテルブルク調査出張)40万円、(3)国内旅費(京都、学会発表)43000円、(4)データ入力謝金50000円、(5)複写費(主にペテルブルクで使用)5万円、(6)ペテルブルクのアーカイヴで使用する資料撮影用デジタルカメラ8万円、(7)書籍、DVD、一次資料購入費222579円。
|