王朝物語『海人の刈藻』を〈院政期物語〉の代表的作品として位置付け、〈院政期物語〉の特質を捉える試みである。その結果『海人の刈藻』は、前時代の藤原頼通の時代の文芸の趣向や、同時代の歴史的な事実を取り込み、それらを『栄花物語』の叙法に倣い表現する、歴史物語取りの濫觴となる作品であることが明らかとなった。そして物語の内実は、協調融和による理想社会の標榜である。このように〈院政期物語〉は、頼通の時代の文芸を吸収し、かつ歴史物語的な叙法に学びながら、平和共存的な貴族社会の実現を目指した物語としてその特質をまとめることができる。この分析結果を一つの指標として王朝物語研究は新たな段階へと進むこととなる。
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