最終年度である当該年度は、研究課題として掲げた〈I.18世紀日本における契沖・荷田春満・賀茂真淵の受容と展開〉、〈II.18世紀の和学者における〈古今〉認識と文化的実践〉という二つのテーマについて、前年度までの成果を統合することを目的として研究活動を行った。当該年度において、資料の収集を行った主な機関は以下の通りである。慶應義塾図書館、国文学研究資料館(以上、東京都)、関西大学図書館、大阪市立大学学術情報総合センター(以上大阪府)、東丸神社、京都大学附属図書館(以上、京都府)、本居宣長記念館(三重県松阪市)、西尾市岩瀬文庫(愛知県西尾市)。以上の研究活動に基づいて、主に以下の成果を得た。 ・荷田春満とその一門による和歌活動の明確化:一戸渉「享保期江戸歌壇と神田明神」(日本近世文学会平成25年度秋季大会、三重大学、2013.11.17)の口頭発表において、荷田春満の江戸での活動拠点であった神田明神の祀官とその周辺の和歌活動を検討し、従来の研究上のエアポケットであった享保期の江戸歌壇の実態を解明した。これによって、賀茂真淵が万葉調を唱える以前の18世紀初頭の江戸歌壇において、従来分断されていると考えられていた古学派と堂上派とが、春満周辺において近接していたことを実証した。 ・橋本経亮の学芸上の諸活動の解明:一戸渉「橋本経亮の歌文資料――『丁巳詠草』解題と翻印――」(『上方文藝研究』第10号、2013.06)では新出の橋本経亮の和歌集を紹介し、その詞書に見られる人名等の解析から、経亮をとりまく人的なネットワークを解明した。また、一戸渉「橋本経亮と真福寺文庫―『尾勢展観目録并抜粋』考―」(『斯道文庫論集』第48輯、2014.2)では、経亮が寛政11年に実施した尾張及び伊勢への訪書旅行を跡付け、特に真福寺文庫での調査活動を跡付けた。
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