研究課題/領域番号 |
23720111
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
宮崎 裕子 九州産業大学, 国際文化学部, 講師 (40581533)
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キーワード | 書誌学 / 文献学 |
研究概要 |
『石清水物語』第3系統伝本は、どのような事情によるのかは不明だが、『正三位物語』の名を冠されている。その伝本のほとんどが、「本居宣長」の奥書を持つことから、『石清水物語』第3系統伝本はすべて、本居宣長所蔵本から派生したものと考えられてきた。 この『石清水物語』第3系統諸伝本に関する書誌調査を実施し、平成23年度には以下の新たな知見を得た。 ①同系統の善本とされていた射和文庫蔵本は、本居宣長記念館蔵本(宣長自筆書入本)の影写本であり、本居宣長記念館蔵本が同系統の最善本であったこと。②同系統の伝本は、すべて本居宣長所蔵本を経て派生したものと考えられていたが、新出資料である石水博物館蔵本は宣長所蔵本を経ずに成立した伝本で、同系統内の別本であることが判明。 ①②を踏まえ、本居宣長記念館蔵本を底本として、射和文庫蔵本・石水博物館蔵本との異同を示した校本を作成し、学術雑誌への分割掲載を平成24年3月より開始した。 平成24年度には、同校本の続稿を雑誌に掲載するとともに、校本を作成する過程で明らかになった本居宣長記念館蔵本・射和文庫蔵本・石水博物館蔵本の相違について、学会および研究集会で口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度までに、『石清水物語』第3系統伝本の中で所在を確認している12本(本居宣長記念館蔵本、射和文庫蔵本、石水博物館蔵本、国立国会図書館蔵本、無窮会図書館蔵本、刈谷市立図書館蔵本、東京大学文学部国文学研究室蔵本、筑波大学付属図書館蔵本、筑波大学付属図書館蔵箱入り本、大阪府立図書館蔵本、内閣文庫蔵本、金沢大学付属図書館蔵本)の内、大阪府立図書館蔵本を除く11本の書誌調査を実施することができた。 その結果、旧蔵者が不明であった国立国会図書館蔵本は本居宣長の高弟小原君雄が所有していた本であることが判明した。また、東京大学文学部国文学研究室蔵本は帙の題箋に「藤井高尚旧蔵」と記載されているものの、国文学研究資料館の調査では蔵書印が高尚のものであることを確認できないため「結論を保留する」とされていたが、今回の調査により、東大本に押されていた蔵書印が藤井高尚のものと一致することが確認され、同本は高尚旧蔵本であることが明らかになった。 『石清水物語』第3系統諸伝本の本文系譜については、本文の配字配行から、以下の3つに分類することができた。 ①本居宣長記念館蔵本・射和文庫蔵本・国立国会図書館蔵本・無窮会図書館蔵本・筑波大学付属図書館蔵本・大阪府立図書館蔵本・刈谷市立図書館蔵本・東京大学文学部国文学研究室蔵本。②金沢大学付属図書館蔵本・筑波大学付属図書館蔵箱入り本・内閣文庫蔵本。③石水博物館蔵本・竹柏園旧蔵本。 校本の作成については、すでに底本とする本居宣長記念館蔵本、新出資料である石水博物館蔵本を翻字した電子テキストの確認作業を、九州大学大学院生の協力によって実施しており、その他の伝本についても、必要に応じて順次確認作業を行う予定である。 以上の点から、本研究の目的である『石清水物語』第3系統諸伝本の書誌調査・本文系譜の建設・校本作成に関しては、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、『石清水物語』第3系統諸伝本に関する本文研究、及び校本の作成である。 今後は、大阪府立中之島図書館蔵本の書誌調査を実施し、各伝本に関する調査を進め、本文系譜の建設、電子テキスト・校本の作成を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、平成24年度に引き続き、各伝本に関する研究・調査を行い、その集大成として校本を作成する予定である。 したがって、各種物品費、資料複写費、研究成果報告や書誌調査を実施する際にかかる旅費、完成した校本の刊行費用などが主な必要経費となる。
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