本研究は、4系統に分類される『石清水物語』諸伝本の中で最も伝本数の多い第三系統に関する書誌調査及び本文研究を実施し、第三系統伝本を校合した校本の作成を目指したものである。この研究で得られた主な成果を以下に記す。 ①善本の特定:現在所在が確認されている『石清水物語』第三系統伝本のほとんどは、「本居宣長」の名が記された奥書を持ち、宣長所有本を祖本とするものであることが判明している。従来、この第三系統の善本と考えられていたのは、宣長の門人竹川政信の長男竹斎が創設した射和文庫が所蔵する射和文庫蔵本であったが、本研究により、善本たる宣長所有本は宣長自筆の題簽・書入を有する本居宣長記念館蔵本であり、射和文庫蔵本はその影写本であったことが判明した。 ②新出資料の紹介:『国書総目録』『古典籍総合目録』も含めて、刊行された目録類に記載されておらず、その存在を広く知られてはいなかった石水博物館蔵本を調査し、『石清水物語』第三系統伝本の一つとして紹介した。 ③第三系統伝本の分類:調査の結果、近世期に書写されたと推定される第三系統伝本13本は、本居宣長記念館蔵本とその影写本の系統である「一類本」、一類本と丁数は同じだが、配字配行が異なる「二類本」、一類本に属する無窮會図書館蔵本から派生した「三類本」、宣長の名が記された奥書を有さない「四類本」、以上4つに分類されることが判明した。 ④校本作成:上記①~③の成果を踏まえ、『石清水物語』第三系統伝本の校本を作成し、その成果を刊行した(『石清水物語の研究―第三系統伝本の校本と影印』新典社、平成26年3月刊)。
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