最終年度には、これまでの成果をも踏まえ学位論文を早稲田大学に提出し、博士(文学)の学位を取得した。このことがもっとも特筆すべき点である。個々の研究としては、神戸大学付属人文図書館蔵『太平記』(釜田喜三郎氏旧蔵本)や阪本龍門文庫蔵豪精本『太平記』といった丁類に分類される伝本調査を行った。これにより、『太平記』諸伝本の本文異同についての調査をさらに進める環境を整えることができた。また、神田本『太平記』本文ときわめて近いとされてきた京都の仁和寺蔵本も調査した。その結果、神田本と類似した本文を有する一方で、異なった本文をも有することが確認され、これまでの指摘を一部修正する部分を発見することができた。この成果を含めた内容は、8月に開催された太平記国際集会(於;法政大学)において発表したので、近々その内容を活字化したいと考えている。論文としては、「近世における軍記物語絵巻の一様相」(『絵が物語る日本』、2014年3月)において、先年調査した楠妣庵観音寺蔵『楠公一代絵巻』についても検討を加え、当該絵巻の性格についてこれまで以上に明らかにすることができた。本年度の研究の重要性は、一つに丁類本系伝本の様相を明らかにすることが一歩前進したことがある。また、仁和寺蔵本を調査することにより、神田本『太平記』の性格を明らかにする対校本文として利用できる部分とそうでない部分とを知ることができたことも重要であると考える。これらの成果についても、今後公表していきたいと考えている。
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