本年度は、科研期間中に蓄積を重ねた『融通念仏縁起絵巻』の調査と研究の成果を踏まえての綜合的研究に取り組んだ。その集大成として、10月にアメリカ・ハーバード大学で開催された「人類の思想的営みとしての宗教遺産の形成に関する総合的研究」研究成果報告シンポジウで発表を行った。その際、土台となる資料や論文をまとめた資料集(A4版80頁)を作成し、最新の研究成果を国内外の研究者に提供しつつ、本絵巻が日本における特筆すべき宗教遺産であることを提示して、高い評価を得ることができた。これを経て3月に再びハーバード大学を訪れ、ハーバード大学美術館本『融通念仏縁起絵巻』の調査と研究報告を行ったほか、学習院大学で開催された国際シンポジウム「Frames and Framings in a transdisciplinary perspective ―枠、枠組みの文化論―」でも発表を行い、融通念仏縁起絵巻の成立と展開を中世社会における勧進という行為から問いなおす試みを行った。 『融通念仏縁起絵巻』の研究は、安居院唱導資料『上素帖』の研究を通じて行った中世東国宗教と文芸伝承の綜合的研究のなかで最優先課題として浮上したものである。諸本調査を含む綜合的研究は、本絵巻の成立と展開をめぐる運動全体について、あらたな知見と課題を見いだすことに繋がり、従来定説化していた重要伝本の位置付けを見直す契機となり、想定していた以上の成果を得ることができた。また共同で取り組んできた国立歴史民俗博物館蔵『転法輪鈔』の研究ならびに富士市博物館所蔵六所家資料のうち旧東泉院聖教の悉皆調査の成果は、『国立歴史民俗博物館研究報告』(2015年刊行予定)と富士市博物館編『六所家総合調査報告書 聖教』(2015年3月)に結実した。これらの成果は、唱導や縁起が生成し機能する宗教儀礼空間の解明において重要で、今後継承発展させたい。
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