研究課題/領域番号 |
23720122
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
位田 将司 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (80581800)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 横光利一 / 上海 / 新カント派 / 日本近代文学 / アヴァンギャルド / 新感覚派 / モダニズム / 認識論 |
研究概要 |
平成23年度は、横光利一の『上海』に関する文献と、都市「上海」に関する同時代の資料の収集をおこなった。また、それと並行する形で、同時代の新カント派の文献の収集もおこなっている。 研究計画当初の目的通り、小説『上海』に関する文献と新カント派の哲学に関する同時代の文献を精読することで、この両者に理論的な連関が存在することが明らかになった。新カント派の哲学は、社会現象を象徴体系や価値関係的な体系として捉える理論を構築しており、この理論を横光が摂取できたからこそ、当時の「上海」を多国籍的で、金融ネットワークの構造を有した都市として把握可能だったのである。横光が新カント派の理論的な影響を通した形で、都市「上海」を理解していたという点は、これまで小説『上海』の先行研究では明らかにされてはおらず、今回の調査の成果といえる。この「上海」表象にかかわる論文は、提出予定の博士学位論文に組み込まれており、公表する予定となっている。 また、この成果は、横光の同時代の「上海」表象を解明するだけではなく、1920年代から30年代にかけての横光のテクストを読解する上でも非常に有益だと考えられる。というのもこの時期の横光はアヴァンギャルドを標榜していたのだが、そのアヴァンギャルドの理論的支柱こそ、この新カント派の哲学理論だったからである。横光の「上海」表象の理論的な根拠を調査する過程で、小説『上海』だけにとどまらず、アヴァンギャルド期の横光の複数のテクスト読解にも資する研究成果を上げることができたのである。この成果は三つの論文、および一つの学会発表で公表した。 また、この調査の過程で、当時のマルクス経済学と新カント派、そして横光の文学理論が結節する理論的な問題点を発見することができた。この発見により、横光の文学理論における「経済」の側面にも、目が向けることができるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
横光利一の小説『上海』の文献調査も問題がなく遂行されており、同時代の新カント派の文献調査も同様に順調に進んでいる。また、平成23年度の研究で、小説『上海』の読解による、横光の「上海」表象と新カント派の理論的連関が、実証的にも理論的にも分析された。この研究成果は学会発表や論文といった媒体で公表されているので、具体性をもって進展している。 また、横光の「上海」表象と新カント派哲学の関係の中に、マルクス主義との理論的連関を発見することができた。これは今後、横光と新カント派の理論的な連関を相対化するうえで、重要な発見だと考えられる。このマルクス主義との関係も、研究計画で考えられていた通りに分析できる体制が整った。
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今後の研究の推進方策 |
横光の小説『上海』の読解および「上海」表象の、新カント派の哲学との理論的な影響関係の分析は、順調に進んでいるので、さらに広く1920年代から1930年代にかけての新カント派と「日本文学」の関係も考察してみたいと考えている。横光の「上海」表象と新カント派哲学の理論的な問題を考えている過程で、新カント派は、横光利一という一人の文学者ではなく、複数の文学者あるいは「日本文学」という領域に、強い影響を与えていたことが推測できるようになった。 そこで、横光の「上海」表象と新カント派の理論的な分析を続けつつも、その研究をある程度相対化するために、横光以外の「日本文学」の領域へと広げる準備をしたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
横光利一に関する文献、および都市「上海」に関する資料書籍の購入費を、研究計画の通り執行する予定である。また、平成23年度に予定されていた、上海への現地調査がおこなえなかったため、平成24年度に繰り越す形でおこなう予定である。また、資料収集をおこなう際は、研究補助者を雇用することで、より効率的な資料の収集に努める。 また、平成24年度に、本研究を盛り込んだ博士学位論文の提出を予定しているので、製本代を予算に組み込みたいと考えている。
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