中世の信仰を色濃く反映するお伽草子「本地物」のうち、『阿弥陀の本地』や『日月の本地』等、仏や菩薩の前世を描いた作品の祖型は、平安時代中期撰述と考えられる『大乗毘沙門功徳経』等の偽経として存在している。それらは、従前の経典内容に不足を感じるようになった時代の要請に応じたもので、当時の菩薩行や誓願観を反映していると考えられる。本研究の主な目的は、その思想と説話・物語との関わりを明らかにすること、また、後代のお伽草子「本地物」の構造について、菩薩行や誓願の視点からの見直しを図ることの二点である。以下の研究を行った。 1平安期における菩薩行・誓願についての把握・分析。菩薩の誓願を扱った金剛寺蔵『百願修持観』(平安後期写)と菩薩に関する経典記事の抜き書きである金剛寺蔵〈佚名諸菩薩感応抄〉(平安後期写)を中心に検討した。最終年度は後者に関する成果を発表した(「金剛寺蔵〈佚名諸菩薩感応抄〉の編纂方法―観世音篇の経文類聚に着目して―」)。 2平安期の本地物語や天竺説話における菩薩行と誓願の把握・分析。『大乗毘沙門功徳経』『観世音菩薩往生浄土経』に含まれる善生太子譚と早離・速離譚が要であると認識し、それらの説話を中心に検討した。最終年度は、七寺(名古屋市)において、『大乗毘沙門功徳経』『(偽戒珠)往生浄土伝』等の関連文献を閲覧・調査した。 3中世本地物語の研究。最終年度には、本地物語の申し子祈願における夢告について、誓願との関連を検討し、口頭発表を行った(「お伽草子のお告げ―『天狗の内裏』における過去・未来の告知から―」)。 4文献調査と情報収集。金剛寺(河内長野市)・七寺・興聖寺等における経典類の共同調査へ参加し、中世聖教の把握に努めた。また、関連の学会・シンポジウムに積極的に参加し、研究情報の収集に努めた。
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