研究課題/領域番号 |
23720128
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研究機関 | 十文字学園女子大学短期大学部 |
研究代表者 |
平野 多恵 十文字学園女子大学短期大学部, 表現文化学科, 准教授 (60412996)
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キーワード | 新後撰集 / 新千載集 / 釈教歌 / 国際情報交換 / 法文歌 / 明恵 / 無常観 / 勅撰集 |
研究概要 |
中世後期の勅撰集における釈教歌は、当時の和歌と思想との連関や仏教と和歌が支え合う社会構造を分析する上で重要な材料を提供するものだが、その本格的な分析は、ほとんど手つかずである。今年度は、これまでの勅撰集における釈教歌の歴史を整理しなおしたうえで、中世後期の勅撰集における釈教歌の分析を進めた。 その結果、中世後期の勅撰集になると、法文歌の題となる経典が以前にもまして拡大することが明らかなった。中世後期に編まれた勅撰集には、大日経・大日経疏・菩提心論・十住心論・理趣経など、従来の勅撰集に未出の経典を典拠とした釈教歌が多く見出せる。中世後期の勅撰集の成立は、当時の政治状況と深く関わっており、勅撰集の釈教部の分析を通して、当時の社会状況が浮き彫りになる。 その中で特に注目されるのは、第13勅撰集『新後撰集』と第18勅撰集『新千載集』である。『新後撰集』には、法華経題の法文歌が他の勅撰集に比べて少なく、『大日経』『理趣経』『菩提心論』『大日経疏』『大乗密厳経』など、真言密教の経典を題材にした法文歌が集中するという特徴がある。第18勅撰集『新千載集』は、足利尊氏の執奏により成立したもので、初の武家執奏による勅撰集として、勅撰集史の上でも画期をなす。先行研究により、尊氏が後醍醐天皇の鎮魂を目的として、この撰集を執奏したことが指摘されているが、釈教部の分析によっても同様の意図が確認できる。 上記の研究内容を2013年3月にイェール大学で開催された国際学会(Waka workshop)において口頭発表した。同ワークショップのテーマは「釈教歌」であり、釈教歌に関心を持つ欧米の研究者と交流することができた。 上記の他、明恵における和歌と夢の関係性、日本的無常観の形成における和歌の影響に関する研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の1つの軸である中世後期の勅撰集における釈教歌の特徴について分析を行うことができた。その成果をイェール大で開催された国際学会で口頭発表することによって、釈教歌が国際的にも関心を持たれるテーマであることを肌身で感じることができたのは予想以上の収穫であった。その一方で、慈円や無住など、個別の僧侶歌人に関する研究を進めることができなかった点は進展が遅れている。これらを総合し、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
学会発表と関連づけて研究を進める。25年度は北京国際日本文化研究センターでの「仏教・文学・女性」をテーマにしたシンポジウムでの口頭発表と、和歌文学会における口頭発表を予定している。国際学会、国内学会の双方で発表し、多くの研究者と交流することによって、より多角的な視野で研究を進められるようになると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
北京国際日本文化研究センターにおける研究発表の出張旅費が必要である。その他、 仏教、文学、歴史、思想関連図書を購入する。
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