本研究課題は、近世初期における大名家・禁裏および儒者といった様々な人々による、中古・中世の日本漢詩文の書写や集成、そしてそれらの成果を支えた校訂事業などの研究に着目し、いまだ十分とは言えないその全容の解明、そして、その研究対象となった中古・中世漢詩文への新たな視角の獲得を目指すものである。これまでの研究の成果は以下の通り ① 彰考館旧蔵「詩集」に所収される学会未紹介資料の検索と編纂に関する研究 ② 内閣文庫蔵(旧林家所蔵)「十番詩合」の紹介:従来ほぼ知られることのなかった本資料について全体を翻刻紹介したほか、鎌倉時代中期の菅原在久(1250~1288)と藤原淳範(1247~1315)の判を付すという、当該期における句題詩制作の一端を垣間見ることのできる貴重な資料であることを指摘した。 ③ 「和漢兼作集」の注釈研究:①の「詩集」と同じ人物の手控えを書写したと思われる箇所があることから注目される本資料について注釈を中心とした研究を行い、その過程で本集所収の和歌と真観撰の和歌集「万代和歌集」「秋風和歌集」等との撰歌傾向の近さをうかがうことが出来た。 今年度は昨年度に引き続き「和漢兼作集」春部の注釈研究を進め、加えて内閣文庫蔵「十番詩合」の研究を行った。当該本は現存数の少ない鎌倉期漢詩であるだけでなく、林家旧蔵本であり、林家における漢詩文収集の一例として注意される文献である。また、3月には国立公文書館にて文献調査を行い、「十番詩合」のほか、「視聴草」(林家儒者による詩合「林子詩合」を含む)、近世初期における漢詩文収集の一つで、京都の野間三竹が本朝の諸集からの名作を抄出し、それに林鷲峯が序を寄せた「本朝詩英」(1669年刊行)について調査を行った。
|