最終年度に当たる本年は、研究がカバーする時代の初期と最後に当たる時期をOliver Wendell HolmesとEdith Whartonの小説作品を中心に研究した。女性の身体・精神観を医学・心霊主義を含めた宗教の観点から捉えてきた本研究において、この2つの研究は4年間の本課題の研究知識の蓄積なくしてはできなかったと考えている。19世紀後半から20世紀初頭の女性の心身観の全容を捉えるという目的は、この2つによって比較的達成されたが、特に宗教と女性の健康という点について、この後の時代をも含めた継続的な研究が必要だと考えるに至った。 現代では読まれることのほとんどないHolmesの"medicated novels"は、医師である彼が書いた小説として、さまざまな同時代の医療の理論と論争を読み取ることができるものである。彼のもっとも興味深い点は、当時の医学的視点から身体的・有機的に精神的な病を理解しようとしていることだけではなく、新しい理論を取り入れつつも、宗教的な視点と医学的な視点の論争として病を見ており、病に対する道徳的な見方から自由になろうとしていることである。この研究については、約半分に当たる部分を論文として発表済みであるが、取り上げている課題が大きいため、半分はまだ未発表である。 Edith Whartonの作品研究においては、女性の病と看護について焦点を当てた。同時代の宗教家Mary Baker Eddyとの対比したこの研究では、看護・癒しという女性の美徳とされた役割・労働が自らの病と結びつくことによって、さらにまた物理的・経済的な側面に結びつくことによって、癒しと病がともに否定されることになることを分析した。またこの研究についても、口頭発表のみで、紙面発表は行っていない。
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