研究課題/領域番号 |
23720142
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
越 朋彦 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (70453602)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 国際情報交流 |
研究概要 |
イングランド17世紀の詩人・作家トマス・トラハーン(Thomas Traherne,1637-74)の文学を、初期近代手稿文化という文脈に位置づけて捉え直すための予備的研究を行なった。本研究は、活字・印刷テクストとは本質的に異なる、手書き/手稿テクストのメディアとしての諸特性に着目しつつつ、いわば「印刷作家(print author)偏重」であったとも言える旧来の文学史/文学研究においては十分な光を当てられてこなかった、「手稿作家(manuscript author)トラハーン」の実像を描き出すことを目指すものである。 Susanna Hopton(トラハーンが司祭を務めていたCredenhillの町からわずか数マイルの所に位置するKingston在住の女性作家)が主宰していたと言われる友愛団体を、Harold Loveの「手稿本共同体/手書き文字のコミュニティー」(scribal community)の概念を援用することによって再検討し、この共同体内で流通していたと考えられる手稿テクストが印刷テクストへと再-成型される過程を分析するための考察を行なった。 英米のマージナリア研究の最近の成果に依拠しながら、ランベス手稿(Lambeth MS. 1360)にトラハーンと同時代の協力的読者/編集者が書き残したコメントを分析することで、それらマージナリアが「手稿から印刷へ」というメディア変換を志向するベクトルを持っているのではないかという仮説的見解を得ることが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Susanna Hoptonについては独立した研究が近年行われるようになってきているものの(Julia Smith ed., Susanna Hopton: Printed Writings, 1641-1700など)、Hoptonとトラハーンが実際のところどのような関係にあったのかという点にはいまだ不明な部分が多く残されている。そのことも一因して、Hoptonのいわゆる「友愛団体」がどの程度までscribal communityとしての諸特徴を備えているのかについて考えるにあたっては慎重を期さざるを得ないのが実情である。 ランベス手稿のマージナリアについては、手稿テクストを印刷メディアへ再-編成する目的に沿うべく、トラハーンの協力者がいわば検閲官の役割を演じており、テクストの内容がより「安全な」ものに書き直されることを志向していたのではないか、というのが一応の結論であるのだが、本文とマージナリアの「対話」をさらに深く、的確に読み解いていく必要があると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
トラハーンの手稿テクストを「それ独自の性質と存在様式を備えた物質的人工物として検討」(Peter Beal, In Praise of Scribes [1998])しながら、手稿文化における文学テクストの生産と受容のプロセスを解明することが当面の課題である。最終的には、初期近代における手稿文化と印刷文化の共生/競合関係と相互作用という包括的な問題に取り組むことが要求されるであろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
トラハーンおよび手稿文化関連書籍 ¥300,000外国旅費 ¥400,000
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