本研究では、翻訳研究(トランスレーション・スタディーズ)のアプローチと英米文学受容研究に接合するという方法論から、大正末から昭和初期にかけて出版されたいわゆる「円本」が牽引した文学翻訳と受容について考察した。その結果、円本における翻訳出版は、文芸の大衆化という狙い・その牽引をアカデミズムに担わせる矛盾とも見える意識・出版社側による翻訳生成への積極的介入という特徴を見いだした。出版社側が、アカデミズムが主導していた当時の翻訳状況を利用しながら、大衆化という旗印の下で、翻訳観・外国文学観の形成に周到に介入しながら翻訳受容を牽引しようとした様相を明らかにできた。
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