本研究においては、アメリカ合衆国建国期における自然誌(natural history)のありさまと、合衆国の「文化的独立」の展開について調査研究を実施した。18世紀の末にイギリスからの政治的独立を果たしたアメリカは、いかにして「文化的独立」を成し遂げるかという課題を抱えることになったが、そこで決定的な役割を果たすのが、アメリカの自然をめぐる言説、自然誌であった。建国期の自然誌は、アメリカと自然の特権的な関係を言祝ぎながら、合衆国の文化的アイデンティティを編成してゆくのである。本研究は、いわゆる「アメリカンルネサンス」期に至って花開く、アメリカ自然誌の萌芽的なありようを明らかにしてゆくことを主たる目的として、展開してきた。 本研究により、「アメリカンルネサンス」期以前、とりわけ建国期における「自然」をめぐる参照枠の不在という、現今のアメリカ文学文化研究の欠落が発展的に解消されたと考えられる。また、建国期の自然誌の様態を解明することで、従来専ら共時的な枠組みのもとで行われてきた「アメリカンルネサンス」期の自然誌をめぐる研究に、通時的な視座を導入することにも成功した。さらに、本研究は、アメリカ学術協会の環大西洋的なネットワークのありさまを、同時期に同様の活動を展開していたロンドン王立協会のネットワークと比較対象しながら解明しため、18世紀末の環大西洋地域における知識人ネットワークの具体像を提示することもできた。本研究成果は、南北戦争以前のアメリカ文学文化研究のみならず、初期近代科学史にも強い影響を及ぼすことになるだろう。
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