20世紀英文学の流れのなかで、とくに第二次世界大戦後の文学と批評、文学と文化とのかかわりを、文化と社会、労働といった鍵概念から再考する試みを3箇年にわたっておこなってきた。最終年度となった平成25年度においては、これまでの期間に研究してきた内容の、とりわけ基礎的な土台をなす部分を公にすることができた。 そのひとつが、当研究における分析の中心に位置する作家・批評家レイモンド・ウィリアムズの諸作品の精読に依拠しつつ、ひろく文化と社会との関係とそれにかかわる諸問題を、ウィリアムズの『キーワード辞典』に倣いつつ現代社会とアクチュアルにつながる議論としてキーワード別に論じた『文化と社会を読む 批評キーワード辞典』(研究社)を共著で出版したことである。 また、レイモンド・ウィリアムズの批評的な文章のうち、これまでに日本語としてほとんど紹介されていない論文やエッセイを翻訳するという作業にも数年をかけて取り組んできたが、これらをまとめて『共通文化にむけて 文化研究I』(みすず書房)として共訳で出版した。ここでまとめられたウィリアムズの論考は、ウィリアムズについての研究のみならず、彼が重要な役割をはたしたブリティッシュ・ニューレフトの研究においても、20世紀英文学を再検討し、新たな系譜を描き出す試みにおいても、文学と文化研究の問題含みの境界を問い直し、新自由主義や労働の問題など、社会の全般的な諸問題と文学との関係を論じる試みにおいても不可欠な文献である。とくに、これまでに日本では紹介されておらず、近年のポストコロニアル研究やデヴォリューションをめぐる問題などで注目されるウェールズについてのウィリアムズの論考を私の担当で訳したが、こうした論考を日本語で紹介できることの意義は極めて大きいと言える。
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