研究課題/領域番号 |
23720151
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
藤村 希 立教大学, 文学部, 助教 (30509237)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 英米文学 / ナサニエル・ホーソーン / 南北戦争前アメリカ / ジェンダー / 評伝研究 |
研究概要 |
本研究は、ナサニエル・ホーソーンの生と作品の軌跡をジェンダーの観点から辿るとともに、作家の生きた南北戦争前アメリカの社会と文化の特異性を浮き彫りにすることを目指すものである。平成23年度の中心作業は、1)資料の収集と分析、2)The Scarlet Letterに関する2件の学会発表、3)次年度発表のThe Marble Faun論の準備、の三つであった。 1)アメリカ近代文学・文化関連資料の収集と分析を開始した。 2)The Scarlet Letterに関する口頭発表を、5月に日本ナサニエル・ホーソーン協会全国大会において、6月に日本アメリカ文学会東京支部例会において、行った。ともに、作品の序文におけるアメリカ国璽のワシをデフォルメした母ワシの描写に注目し、ジェンダーを介した個人と共同体の関係のこの作品における描出の意味と意義を探ったものである。ただし2つの発表で重点は異なり、5月は他研究者とのシンポジウムであったため、このテーマの現在のアメリカ文学研究における重要性を確認・共有する作業が主となり、6月は個人発表であったため、公表許可の得られたマサチューセッツ州セイラムのPhillips Libraryに所蔵されるホーソーンの家族に関する一次資料の画像を参照しつつ、作家の経歴上の意義を浮き彫りにする作業が主となった。 3)平成24年6月にイタリア・フィレンツェにて開催される米国Nathaniel Hawthorne Society主催の学会における口頭発表原稿を、The Marble Faunに関して準備し始めた。南北戦争とイタリア統一戦争という二つの戦争へのホーソーンの反応を作中に見出し、国家と、国家のシステムが下支えするジェンダーへの、ホーソーンのこの作品における初期作品とは異なるとらえ方を浮き彫りにすることを目指す。発表要旨応募の結果、発表者として選出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度は、2件の学会口頭発表、および平成24年度のイタリア・フィレンツェ学会発表への応募は当初の予定通り遂行できた。しかし、その他の点で予定より遅れが出ている。まず、所属研究機関の異動があり、資料の収集と分析の作業が遅れている。また、The Scarlet Letterに関する口頭発表は、平成23年度中に英語論文として学術雑誌に投稿・発表する予定であったが、5月に口頭発表を行った日本ナサニエル・ホーソーン協会より、協会発足30周年を記念した本大会の発表を論文集としてまとめたいという提案をいただいたため、学術雑誌への投稿を見送り、論文集収録のための準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究推進方策としては、1)平成23年度に収集できなかった資料の収集と分析を集中的に行うこと、2)イタリア・フィレンツェにおける学会参加により、他国の研究者との意見交換、現地での調査を行い、論文を学術雑誌に投稿すること、3)2)の結果をもとに、南北戦争と作家晩年の調査・分析を集中的に行い、本年度後半に実施予定のマサチューセッツ州コンコードでの資料収集・調査につなげること、とする。 殊に2)に関しては、発表を通じてアメリカや現地イタリアなどから参加予定のホーソーン研究者たちのコメントを積極的に求め、意見交換と研究の深化・発展を図る場としたい。大会期間中には、発表で取り上げる作品The Marble Faunにゆかりの現地の建造物や美術館へのツアーも開催されるので、現地調査と資料の閲覧・収集(画像資料・映像資料を含む)も同時に集中的に行うこととする。大会発表に寄せられたコメント、および収集した資料をもとに口頭発表原稿に加筆修正を施し、平成24年度内に英語論文として学術雑誌に投稿する。 また3)に関しては、2)の活動を通して得られた情報や知見に加えて、南北戦争150周年を記念し再考する新たな研究が出版されてきている現在の有利な状況を活用し、ホーソーン最晩年に当たる1860年から64年の作家の生と作品、そのコンテクストである南北戦争の調査と分析を集中して行う。ホーソーンが晩年を過ごしたマサチューセッツ州コンコードは、作家が妻Sophiaと新婚時代の1842年から45年を過ごした地でもあり、また未完のThe Elixir of Life Manuscriptsの舞台である独立戦争開戦の地でもあるので、これらの異なる側面に注意を払いつつ、現地研究員の協力を得ながら資料の調査と収集を行うこととする。この考察は、翌平成25年度に学術雑誌に発表することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は、次の理由から当初予定していた予算から平成24年度に繰り越す研究費が出た。第一に上記「現在までの達成度」で述べた理由により資料の収集が遅れたこと、第二に予定していた携行用のコンピューターの購入を直接経費からではなく、使用期限のあった立教大学内の別予算から行ったこと、第三に資料以外にもコンピューターの外付けハードディスクなど購入の遅れた物品があったこと、第四に英語論文の学術雑誌投稿を見送ったため予定していた英文校正費の利用がなかったこと、である。この繰越金と、新たに平成24年度に請求する研究費によって、上記「今後の推進方策」で述べた研究活動を遂行する。
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