研究課題/領域番号 |
23720154
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研究機関 | 梅光学院大学 |
研究代表者 |
吉村 征洋 梅光学院大学, 国際言語文化学部, 講師 (90524471)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | シェイクスピア / エリザベス朝政治 / 物語詩 / エリザベス1世 / republicanism |
研究概要 |
本年度は、Venus and AdonisとThe Rape of Lucrece における研究を発展させ、二つの物語詩の類似性を探ったうえで、「反エリザベス」という共通したイデオロギーがコード化されて、詩のことばに埋め込まれていることを検証した。Venus and Adonis, The Rape of Lucrece に共通するテーマとして、「為政者がlustに溺れ、立場の弱い相手に対して、情欲をぶつける」ことが挙げられる。そこでまず、二人の為政者を表象している「ことば」やイメジャリーに注目しながら精読を行い、コード化されたことばが内包するイデオロギーを明示した。Venus and Adonis, The Rape of Lucrece に関する先行研究の分析を行う中で、特に二つの詩とエリザベス朝政治との連関を研究している、Andrew Hadfield, Katherine Duncan Johns, Richard Wilsonの著書や論文を中心に分析し、さらにはエリザベス朝政権を詳細に論じたJohn Guy, Paul Hammerの著書や論文を含めて、政治的・歴史的文脈から二つの詩を包括的に研究した。先行研究では、詩のプロットとエリザベス朝政治との連関が指摘されているが、テクストの「ことば」まで深く踏み込んだ考察がほとんどなされていない。本研究では、テクストの「ことば」を精査することによって、シェイクスピアが詩の中に内包したコードを読み解き、それをエリザベス朝当時の政治的コンテクストから考察すると、「反エリザベス」というイデオロギーが浮かび上がってくることを指摘した。その成果を、博士学位論文「シェイクスピアの2つの物語詩に内在するコード解読」にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究実施計画通り、平成23年度は、シェイクスピアの2つの物語詩である、Venus and AdonisとThe Rape of Lucreceにおける研究を発展させて、以下の2つの論文に纏めて、その成果を報告をした。(1)博士学位論文「シェイクスピアの2つの物語詩に内在するコード解読」というタイトルで、関西大学に博士学位論文を提出し、受理された。この論文の第一部では、古代ギリシャ・ローマから、ルネサンス期イングランドまでの政治理論の系譜を辿り、シェイクスピアに影響を及ぼしたと考えられる政治思想について検証した。中でも、republicanismというキーワードに注目して、シェイクスピアとrepublicanismの連関を指摘した。第二部では、第1部で検証した政治思想が、2つの物語詩の中でどのように反映されているかを考察した。そして、エリザベス朝政治的コンテクストの視座から詩の中のことばのイメジャリーやプロットを考察すると、2つの物語詩が「反エリザベス」というイデオロギーを内包していることを指摘した。2つの物語詩についての研究成果を、包括的に示すことができた。(2)「The Hidden Code in Venus and Adonis」(Bulletin of Baiko Gakuin University 45, pp. 23-34)Venus and Adonisに内在するコードを解読して、「反エリザベス」イデオロギーがこの詩には暗示されていることを英語論文によって指摘した。国内ならず、海外にも積極的に研究成果を報告できたと考えている。以上の研究成果から、当初の研究計画以上に、本年度は研究が進められた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究計画としては、平成23年度に実施したシェイクスピアの物語詩に関する研究をベースにして、二つの物語詩との共通点を探ったうえで、「反エリザベス」というイデオロギーがコード化されて、ソネット集の「ことば」に埋め込まれていることを精査する。この計画を実行するために、4つの段階((1)調査段階、(2)研究段階、(3)発表段階、(4)報告段階)に分けて、研究を進める。以下に、各段階における詳細を記す。(1)調査段階:ソネット集のテクストを精読し、Venus and Adonis, The Rape of Lucrece における「ことば」との連関、もしくは差異を考察することを通して、ソネット集に書かれた「ことば」に内包され、コード化されたイデオロギーを分析する。(2)研究段階:ソネット集に関する先行研究の分析を行う。特に、二つの物語詩とソネット集の連関を研究している著書や論文を中心に分析し、さらにはエリザベス朝政権を詳細に論じたJohn Guy, Paul Hammerの著書や論文を含めて、政治的・歴史的文脈からソネット集を包括的に研究する。そのうえで、調査段階で明示した持論の独自性と先行研究の比較考察を通じて、持論の補正を行う。(3)発表段階:調査・研究段階を経て出来上がった持論を、学会等の場において、研究発表する。(4)報告段階:発表段階で実施予定の学会発表における、質疑応答や意見を検討して、持論の再考を行う。そして、口頭発表原稿を加筆修正しながら、英語論文を完成させて、学会誌等に投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画は、以下の通りである。1.書籍費:本務校の図書館には、The Sonnetsに関する書籍がほとんどないため、書籍を新たに購入する予定である。2.旅費:国内外問わず、シェイクスピア研究に関連する学会に参加、もしくは研究発表をする予定なので、それに係る費用。また、本研究に必要な資料を収集するために係る旅費。3.論文作成費用:平成24年度に研究するThe Sonnetsに関する研究成果を論文にするための印刷費や学会誌投稿料、英文で論文を出すための英文校正費、さらには、本研究の成果報告書を作成するための費用。以上、3つが本研究を実施する上で使用予定の研究費である。
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