平成26年度は18世紀末英国の政治的緊張の中でのコールリッジの自由思想の特性と問題点を明らかにした。非国教徒ラディカリズムを社会的正義の観点から見直したW・ゴドウィンを参照点とし、様々な文献を通してコールリッジが彼をいかに摂取・批判したかを考察した。 考察内容は主に以下の3点。(1)ゴドウィンの合理主義的人間観とコールリッジの宗教的感情の「質的」差異とは別に、個々の社会的紐帯の重要性を主張するコールリッジの社会モデルにはゴドウィン的義務観念がしっかりと根を下ろしている。(2)コールリッジの政治思想は個人の社会活動を自由の条件と見なした点で、自由を所与とする自然権理論ではなく、ゴドウィンと19世紀社会学を結びつける線上に位置づけて理解すべきである。(3)ただし、彼はゴドウィン的個人の「自律性」をより精神的・宗教的な「自由意志」と捉えなおした面があり、逆説的に一部のエリートが(そうした自由を持たない)社会の下層階級を引っ張っていく啓蒙の構造が想定されており、それが後期コールリッジの保守的・権威主義的な社会改革論にもつながっている。 研究期間全体を通じ、現代文学批評がロマン主義に見出していた脱構築的~リベラリズム的思考様式の萌芽を、(1790年代ラディカリズムへの内在的批判として)自由それ自体の原理やコミュニティ形成の在り方を模索するコールリッジの方法論的意識に見出すことができた。同時に(I・バーリンに端を発する)自由概念の諸矛盾をめぐる論争(例えば「積極的」自由が全体主義へと横滑りする可能性)とコールリッジの政治学を突き合わせて考察したことで、今後ロマン主義に胚胎するリベラリズムの問題点や歴史的特異性を理解するための土台を作った。 なお、最終年度の研究成果は論文として準備中(平成27年度夏以降の学会誌への投稿を予定)である。
|