【研究の概要】本研究は、19世紀後期アメリカの文学作品を、「子どもの教育」という視点から論じたものである。最終年度に当たる平成25年度、筆者は(1)ルイザ・メイ・オルコット作品に描かれた看護師(nurse)の表象から、作家の看護観について考察し、(2)オルコット作品の日本での需要を考察し、日米両国の教育制度の比較分析を行った。研究実績の詳細は以下の通りである。 1)まずオルコットの看護観であるが、本研究成果は論文集『超越する女』で発表した。【研究内容】本稿では、英米を代表する看護師フローレンス・ナイチンゲールとドロシア・リンド・ディックスの看護観を考察した後、ルイザ・M・オルコットが南北戦争時に看護師として従軍した体験をもとにした『病院のスケッチ』(1863)をとおして、作家の看護思想を考察した。女性運動や国家貢献などの大義ではなく、あくまで目の前にいる患者ひとりひとりに寄り添うオルコットの看護に対する姿勢は、子育てや介護をも含む多義的なnursing の実践にもなっていた。彼女の看護観は、孤児救済活動を目指したオルコット自身の教育観にはもちろんのこと、少数精鋭のエリート教育ではなく公教育を目指した19世紀中葉以降のアメリカ教育界の動向にも基本的に沿うものである。 2)次に『若草物語』の日本における需要研究にかんして、オルコット研究会The Summer Conventional Series 2013にて発表した。【研究内容】本発表ではまず、『若草物語』の初翻訳書『小婦人』(1906)からアニメ名作劇場『愛の若草物語』(1987)に至る、日本での受容史を概観した。その後、オルコット作品と日本社会における子どもの教育制度の変遷を比較分析した。
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