研究課題/領域番号 |
23720161
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研究機関 | 広島修道大学 |
研究代表者 |
一谷 智子 広島修道大学, 法学部, 准教授 (70466647)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | オーストラリア文学・文化 / 先住民文学 ・文化 / ポストコロニアリズム / 英語圏文学 / 文化的アイデンティティ / 主体性 / ナショナリズム / マルチカルチャリズム |
研究概要 |
本研究は、先住民と非先住民系オーストラリア人の和解の過程において生成された文学作品に焦点をあて、従来の「国家」や「国民」という概念に根差した主体性のあり方を問う文学的実践を考察することを目的としている。本年度前半は、一次・二次資料の収集を国内にて行い、先行研究の整理を行う一方で、選定した作品の読解分析を進めた。先住民系作家Kim Sctott、アングロ・ケルテック系作家Kate GranvillやRichard Flanagan、セルビア系移民作家B.Wongerなどの作品分析を通して明らかになったことは、これらの作品が共通して国家の歴史的過去の語り直しを行っており、この文学的歴史再考の実践がオーストラリアの主体性の再考と再構築を促しているということである。このオーストラリアの主体とは、従来の"白人性"を中心にした西洋的な主体ではなく、オーストラリアという大陸、土地という概念に根差したものである。Sctottは、入植初期の歴史を先住民的な視点から語り直し、国家や国民という概念の問い直しを行っている。一方、GranvillやFlanaganは、流刑植民者の歴史を描くことで、移民による大陸への所属意識の問題に取り組んでいる。Wongerは、英国政府による先住民の土地での核実験とオーストラリア政府によるウラン鉱山の開発について描き、先住民的土地への所属と西洋的土地の搾取の問題を前景化し国家主体の問題に挑んでいる。本年度後半には、パースとアデレードで行われたWriter’s Festivalに参加し、作家の講演等に参加した。また、オーストラリアの大学や図書館で二週間に渡り新たな資料の収集にあたり、次年度の研究のための有益な資料を確保できた。現地調査では、最新のオーストラリア文学の動向を掴むことができ、実際に作家に話を聞くことによって、文学作品の理解を深めることが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
資料の収集と分析はおおむね順調に進展している。しかし、今年度の分析を論文にまとめ出版する予定であったが、叶わなかった。現在鋭意執筆中である。隔年で開催されるWriter’s Festivalが2月から3月にかけて開催されたため、フェイールドワークと資料収集のための渡豪の時期が遅れた。そのため、必要な資料の収集や作家へのインタビューの実施が遅れ、論文の執筆を次年度に繰り越す必要が生じたことが論文執筆の遅れの理由である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度収集した資料の分析結果を学会報告や論文(3本)にまとめ平成24年度中に発表する。Alexis Wrightの作品に関する分析を『修道大論集』に、B.Wongerの作品分析を『オーストラリア研究』に、Kim Scottの作品分析を『南半球評論』に投稿、掲載できるようにする。また、オーストラリアの現地調査で収集した新たな資料の分析を行い、この分析成果を論文(2本)として平成25年度中に出版する。現代オーストラリア文学関連の資料は入手が日本では難しいため、再度オーストラリアでの資料収集調査をキャンベラを中心に実施する予定である。 今年度分析を進める作品群は以下の通りである。Kim ScottのThat Deadman Dance、B.WongarのTotem and Ore、Kate GrenvilleのSarah Thornhill、The Lieutenant、Peter CaryのTrue History of the Kelly Gang、Richard FlanaganのGuld's Book of Fish、Wantingなどである。Kate GrenvilleのThe Secret Riverは現在日本への翻訳出版を進めており、現代企画室から2005年度出版予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
書籍資料代、研究会、学会への参加費、論文印刷費、オーストラリアへの渡航、現地調査費として使用する。また、学会発表や海外調査に携帯できる小型ノート型パソコン1台を購入予定である。
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