研究課題/領域番号 |
23720161
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研究機関 | 広島修道大学 |
研究代表者 |
一谷 智子 広島修道大学, 法学部, 准教授 (70466647)
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キーワード | 英語圏文学・文化 / オーストラリア / 先住民文学 / 移民文学 / ポスト国民国家 / 核文学・批評 / 主体性 |
研究概要 |
本研究の目的は、「ポスト国民国家」時代の主体性の問題と可能性を、先住民と非先住民系オーストラリア人の交渉と和解のプロセスにおいて生成されるオーストラリア文学に焦点を当てながら考察することである。昨年は、パースとアデレードの文学祭に参加し、キャンベラの先住民研究機関で資料を収集しながら、先住民作家の作品を中心に考察を進めた。本年度は、昨年度の研究成果を2本の論文にまとめ出版した。そのうち、一本は日本英文学会の『英文学研究』に査読付き論文として掲載され反響を得た。 さらに、11月にオーストラリア・ニュージーランド文学会において、先住民作家Jeanine Leaneを招聘し、「複数の文化・複数の歴史を書く:現代オーストラリア作家との対話」と題したシンポジウムをコーディネートするとともに、パネリストとして口頭発表を行った。本シンポジウムでは、タスマニアの先住民排除の物語を描いたRohan Wilsonも合わせて招聘し、オーストラリアの先住民作家と非先住民作家のパネリストを交えて、現代オーストラリア文学の動向と新たな可能性を日本へ紹介するきわめて重要な機会となった。 また本年は、非先住民系作家の作品の考察を予定しており、セルビア系移民作家、B.Wongarを中心にその分析に着手した。2月下旬に渡濠し、資料の収集を行うと同時に、作家(Wongar)本人へのインタビューを行った。Wongarの作品は、アメリカやヨーロッパで出版され、世界的な評価を得ているのも関わらず、先住民作家としてアイデンティティを偽ったとして、オーストラリアではほとんど評価されることがなかった。しかし、今回の取材で、セルビアにルーツを持ちながら、先住民文化を深く理解し、作品を書いたWongarという作家が、本研究のテーマである「ポスト国民国家」の主体性を考察するうえで重要な手がかりを与える作家であることを確信した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年遅れていた1年目の研究の成果を2本の論文として出版できたのは、研究全体を進展させることにつながった。しかし、今年度の達成目標としていた、2年目の研究成果を論文にまとめることが出来なかった。分析対象としていた作家へのインタビューを行う時期が年末にずれ込み、論文として出版するには至らなかったのである。しかしながら、オーストラリアの調査旅行では、実際に作家に会い調査を行うことで、世界的にも非常に貴重な資料を手に入れることができたのは大きな前進であった。 国内外の研究者と共同し、本研究のテーマにかかわるシンポジウムを日本で開催することができたことも、当初の計画を遂行できたということで、ひとつの達成であったと言える。 実施計画よりは全体的に、若干遅れ気味の傾向にはあるが、予想を上回る貴重な資料を入手し、今後の研究に拍車をかける結果となった。次なる段階として、本年度の成果を来年度に口頭発表や論文として形にしてゆくことが望まれる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究調査の結果を、6月のオーストラリア学会で口頭発表する。その後、学会でのフィードバックを組み込む形で、その論考を9月締切(来年度3月刊行予定)の学術誌『オーストラリア研究』へ投稿する。また、再度、9月に渡濠し、作家本人(B.Wongar)の協力を得て、調査を進める。その結果を、書籍という形にまとめる準備をはじめる。最終年となる次年度には、共同研究者らと出版を企画予定している論文集に研究の集大成となる論考を執筆する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、学会への参加費、オーストラリアへの渡航旅費と調査費、また研究に必要な物品費として使用する。
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