研究課題/領域番号 |
23720167
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井上 暁子 北海道大学, スラブ研究センター, GCOE共同研究員 (20599469)
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キーワード | 国際情報交換 / ドイツ / ポーランド / 移民 / 境界 / 作家 / 世界文学 / 記憶 |
研究概要 |
本年度は、バイリンガル作家ダリウシュ・ムッシャーの作品を、ポーランドにおける「受容」という観点から論じた。まず7月末、小樽で開催された北大スラブ研究センターの研究員らによるワークショップで、上記の作家のポーランド語作品のポーランドにおける出版事情を、国境地帯の文化人と移民作家の共同作業という現状に照らし合わせながら紹介した。さらに、1月12日開催された、地域研究コンソーシアム次世代ワークショップ「地域の『対外的境界』と『内なる境界』――東欧と中国語圏をめぐる研究者の対話」(代表者:香坂直樹)で「境界認識と自己意識―ドイツ在住ポーランド人作家と地域の関係を通して-」という報告を行い、こうした共同作業のもつ文化的意義について解説した。 また、3月3日~4日開催された、日本学術振興会助成国際研究集会「グローバル化時代の世界文学と日本文学 ―新たなカノンを求めて―」(主催:現代文芸論)にて、"Strategies for crossing borders―the case of Klub Polskich Nieudacznikow (Club of Polish Underdogs) in Berlin―"という報告を行い、ベルリン在住ポーランド人の境界認識と自己意識について紹介した。ワークショップおよび国際会議で行われたこれらの報告はすべて、3月、東京大学大学院総合文化研究科地域文化に提出された博士論文に収められている。 そのほか、2月16日~27日、ドイツ・ポーランド・ルクセンブルクへ出張し、ふたりの作家にインタビューを行った(ビデオに収録)。ひとりは、ルクセンブルク在住、もうひとりは1980年代末にドイツへ移住し、2009年ポーランドに帰還した作家である。両者からは、ポーランドにおける出版事情のほか、創作に関する様々な情報を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた研究内容はすべて、各種学会やワークショップで報告されただけでなく、博士論文としては活字化されているが、論文として学術雑誌に投稿されたわけではない。活字化した形で発表することは、今年度の課題として残されている。 また、前年度に計画されていた、ポーランド語作家パヴェウ・ヒューレの文学についての論文は、論集『東欧地域研究の現在』(柴宜弘・木村真・奥彩子編;山川出版社)に収められ、平成23年9月に刊行された。 今年度の成果としてもっとも重要と思われるのは作家インタビューである。これは、文学以外の分野の研究者にとっても興味深い内容となっている。インタビューを行った作家は、申請者が博士論文で扱ってきた人々であり、中には10年以上の付き合いになる作家もいる。「移民作家の肉声」はめったに記録にのこならないので、こうした形でデジタル化されることが望ましく、今回の出張はその意味で極めて有意義であった。
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今後の研究の推進方策 |
1)2月後半に行われたインタビューの映像に字幕を付ける(平成25年度~26年度) 本科研費の枠内では二人の作家にインタビューしたが、それ以外に(別の科研費をあてて)もう二人の作家にインタビューを行っている。字幕を付ける作業は、日本語のできるポーランド人に頼み、その下訳を申請者がチェックし、日本語を調整するという形をとりたい。 2)字幕のついた映像を上映する機会を設ける(平成26年度)シンポジウムのような機会を設け、その中でインタビューの映像の抜粋を上映したい。文学研究者のみならず、多分野の研究者が足を運ぶシンポジウムの計画が望ましい。 3)1980年代末、ドイツへ移住したポーランド語作家クシシュトフ・ミックの文学について論文を書く(平成25年度)ミックは「ドイツ系帰還者」についてのジャーナリスティックな文学を書いている作家である。この作家については博士論文では取り上げていないが、今年度中に活字化し、学術雑誌に投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
作家ナタシャ・ゲルケとクシシュトフ・ミックへのインタビューを行う。両者へのインタビューは前年度行う予定だったが、スケジュールが合わず実行することできなかった(これによって残額が発生)。前年度からの繰り越した経費は、今年度、これら二人の作家のインタビューための旅費および謝金として執行する予定である。
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