20世紀初頭にフランスで活動を開始した文学・美術運動シュルレアリスムに注目しながら、同時代の文学と科学との関係をおもに認識論的な観点から考察することが本研究全体の課題であった。本研究がとくに注目したのは、画家としての活動を継続しながら、同時代の科学的著作を幅広く参照しつつ、特異な文学ならびに美術批評家として活動したヴォルフガング・パーレン(Wolfgang Paalen)の仕事であり、その研究成果は、当初の研究予定を1年間ほど前倒しするかたちで、2012年度(研究2年目)の業績として、単行本(単著)として発表することができた。 そこで研究最終年度にあたる2013年度は、「同時代の文学と科学との関係」という同じ問題を、前年度とはまた違った角度から検討しながら、問題をさらに多角的にあつかうことを目標とした。「ちがう角度」とは、文学と科学という領域が混交しつつ混濁する、いわばグレーゾン、いわゆる「疑似科学」と、科学・文学との関係である。この問題を具体的に検討するために、おもに、シュルレアリスムの理論的支柱としての役割をになったアンドレ・ブルトン(Andre Breton)が1920年代に発表した文学・美術理論を参照し、そしてそれをおもに写真を対象とした当時の科学的・技術的言説とつきあわせることで、20世紀初頭の文学と科学とのあいだに見られる相互影響について明らかにした。その研究成果は、図書(共著)として発表された(具体的な業績名については、別項に明記する)。
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