本年度の研究成果の最初のものは、昨年度東北ドイツ文学会にて学会発表を行ったブレンターノに関して、発表原稿に加筆、修正を加え、論文「「狂気の中で感覚の妄想は癒されねばならない」ークレメンス・ブレンターノ『ゴドヴィ』における"Sinn"と"Wahnsinn"についてー」を執筆したことである。この論文は、近日刊行予定の「東北ドイツ文学56号」に掲載決定となった。初期ロマン派の「新しい神話」計画と、後期ロマン派におけるその挫折の過程を明らかにする上で、初期から後期への文学史的転換点となる『ゴドヴィ』の分析ができたことは大きな収穫であった。 さらに5月には日本アイヒェンドルフ協会研究発表会において、「ノヴァーリスの「感性的宗教」ー「新しい神話」としての『ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン』」と題した研究発表を行った。また、発表原稿に加筆・修正を加えた同題の論文が、日本アイヒェンドルフ協会「あうろ~ら」33号に掲載決定となっている。これはいわば当該課題の集大成ともいえる研究であり、これによってノヴァーリスからブレンターノを経て、クライストに至る「新しい神話」の変遷を、啓蒙主義的感覚論及び啓蒙主義的歴史観の文脈から明らかにすることができたと確信している。 4年間にわたり、研究計画に挙げたノヴァーリス『ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン』、フリードリヒ・シュレーゲル『ルツィンデ』、ブレンターノ『ゴドヴィ』及びクライスト『マリオネット劇場』の研究を遂行し、ロマン主義運動が啓蒙主義へのアンチテーゼではなく、啓蒙主義諸学問を取り込んで発展してゆく運動であることが確証された。
|