文学作品がどのようにして規範として形成されるか明らかにすることが本研究の目的の一つであった。平成26年度は、ボードレールが規範化された文学をどのように受容し、それがどのような形でボードレールの作品に反映されているか検討することが計画されていたが、このことは前年度に学会発表し、論文を刊行することができた。そのため当初の研究計画に忠実でありつつも、より広い視座で規範化という問題を検討するためにボードレールが文壇に登場した際の規範との関係をさぐること、そしてボードレールがフランスで規範化される前に、日本においてどのように受け入れられ、どのようにして日本のアカデミズムで規範化されたか検討することができた。 平成26年度の12月に岩手大学で行われたシンポジウムにて「いかにして詩人になるか」というテーマでボードレールがどのようにして規範と向き合いながら詩人になる道を選んだか検討した。ここではボードレールが受けた文学教育は当然のこと、当時のジャーナリズムの影響が大きかったこと、そして新しい芸術を提唱したロマン派以降、芸術一般が陥っていた混沌的な状況に対して独自の活路を見出そうとしていたことを明らかにすることができた。ボードレールは美術批評では反規範の流れに身を置きつつも、最終的には新しい規範を創造することを目指していた点に注目できた。 平成26年度の1月には群馬県立土屋文明文学記念館にて日本におけるボードレール受容の変遷について講演を行った。ここではフランスでのボードレール受容の変遷も確認したうえで、日本でボードレールがどのようにして規範化されていったか、日本のアカデミズムの状況と比較しながら山村暮鳥と大手拓次という詩人がどのようにしてボードレールを読み、翻訳したか明らかにすることができた。その結果、日本における文学の近代化と規範化が相互補完的な関係にあったことを論ずることができた。
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