本研究は、 (1)植民地的観点から従来の難民概念を拡張し、 (2)その難民概念に照らしながら、日本語を母語としない、植民地期の朝鮮人文学者達の日本語による文学活動及びその作品の意味を問い直すことを目的とした。 以上の目的のもと、資料の収集、「難民」概念の再検討、植民地期に日本語と朝鮮語で文学活動を行った文学者についての検討、さらに「対形象化」や「植民地的主体」といった用語の批判的検討を行った。研究の結果、「植民地的主体」といった諸概念は、親日派/民族派、抵抗/協力といった枠組みの不十分さを補う一方、当時の〈日本語文学〉の多くが植民地体制擁護的な側面を低く見積もる危険性があること、さらに当時の作家の立場についての説明を困難にするものであることを明らかにした。すなわち準日本人的立場でもあり、難民的でもあった朝鮮人文学者と、彼らが生み出した準日本語的な作品の意義や問題を見逃してしてしまうものであることが明らかとなった。
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