研究課題/領域番号 |
23720189
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
廣澤 裕介 立命館大学, 文学部, 准教授 (20513188)
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キーワード | 中国 / 韓国 |
研究概要 |
本年度は、前年におこなった調査や研究に、新たな視点・考察を加える幅広い研究活動を展開できた。 何度か足を運んだ「清朝宮廷演劇文化の研究」研究会では、毎回、演劇と小説の関係、テキストの成立と改変などに関する問題について多いに考えさせる成果が次々と発表されていた。それら成果の研究対象の広範さと考察の深さは大いに刺激になり、学ぶところが多かった。またその会場で会うことができた国内の研究者だけでなく、海外の研究者からも、本研究に関する意見や情報を得ることができた。 前年からおこなってきた内閣文庫諸所蔵「全相平話5種」の研究をすすめた。出版物としての白話小説、その中の挿図を考える際に、中国における出版物と絵画の関係、芸能と絵画の関係、物語と絵画の関係を考える必要性を覚え、日本に所蔵される絵巻物、絵解き実演と資料、関連書籍など、フィールドワークを含めた調査を多くおこなった。それら資料・芸能を実際に目にし、それらの図柄の装飾性や空間性を確認できたことで、本研究が対象とする中国近世の芸能と絵画、物語と絵画の関係については大いに参考になる点があった。そのため研究・考察すべき範囲が拡大したが、それらの調査・考察は本研究にとっては避けることができないプロセスであると考えている。 また天理大学附属天理図書館に所蔵される『李卓吾先生批評水滸伝』をはじめとする中国古典小説の資料を調査し、その複写を入手でき、その整理と分析をすすめている段階で、今後の研究を進める準備を整えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の最初の考察対象と位置づけていた『全相平話5種』の分析の途中で、芸能との関係をこれまで想定していたより深く、広く考えなければならない必要が出てきたため、研究すべき対象が拡大し、大きな回り道をしている段階である。『全相平話5種』は白話小説版本の初期形態を持つものとされており、上図下文というスタイルは文字テキストと挿図の関係の関係において一つの伝統となってゆくものである。この作品を丁寧に考察することは、本研究だけでなく、筆者にとって今後の展開に関わる重要な内容であるので、おろそかにせず進めてゆきたい。順調にゆけば、『全相平話』に関する新たな見解を提出できるだろうと考えている。夏には、これに関する論文を執筆したいと考えている。 そのため『三国志演義』や『水滸伝』の研究がいささか遅れている。特に『水滸伝』の版本の調査はいくつか行っているが、まだ目にするに至っていない数種類があり、比較検討ができていない。未見の版本の調査は出来るだけ早くしなければならないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず調査としては、また韓国内にある『三国志演義』の周曰校系諸本について行いたい。鮮文大学や東国大学などの図書館に、周曰校本を底本とした翻刻本が数種類あり、また近年朝鮮で印行された銅活字本も発見されている。周曰校本のバリエーションを明らかにするために、それらの調査を行いたい。 「全相平話五種」に関しては、夏ごろにその挿図を中心とした論文を書く予定である。 『三国志演義』の南京系諸本の挿図について、その変遷について論文をまとめたい。これまで『三国志演義』の挿図については、主に福建刊本に関する研究が多かったので、これまでの調査結果をまとめ南京系の諸版本本の挿図について論文を執筆する予定である。 『水滸伝』に関しては、未調査、未収集の資料に対し、できるだけ多く、早く研究段階に入れるように手を打ってゆきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
調査のための旅費と複写資料の購入が多くを占める予定である。訪問先としては内閣文庫、蓬左文庫、韓国の東国大学などである。具体的には「全相平話5種」の挿図関連の論文執筆のための再調査の費用、周曰校本『三国志演義』と李卓吾本『三国志演義』に関する調査費・旅費等、『水滸伝』の版本に関する調査費・旅費・複写費である。また、日本の絵解き芸能に関するフィールドワークのための費用、関連書籍と資料の購入にも多くを割く予定である。中国文学や中国古典小説、中国の芸能に関する研究会や学会への参加費・旅費、そして研究成果を翻訳するためにも使用する予定である。
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