研究概要 |
本研究の目的は,時間内で推移する動的事象の解釈及び記述の際にロシア語にとって本質的に重要と考えられる意味的優勢素「限界」の,言語を貫くその体系性を,異なる意味的優勢素「安定」を持つ日本語と対照させながら,構築することにある。初年度は文学作品とその翻訳による言語資料をデータベース化することが主な課題であったが、並行して各言語に特徴的な言語相対的処理の仕方についても検討した(以下)。 ロシア語と日本語の語りのテクストを用い、そこに現れる各言語の動詞アスペクトの振舞いを比較すると、原作と翻訳の間で異なる記述の仕方を採用する場合があり、それは各言語の優勢素の影響下に、記述される状況が再解釈される例と考えることができる。特に(a)「個別出来事の動態的推移」の記述を好むロシア語と「安定的状況(状態・過程)の静態的存在」という形で複合事態を記述する日本語;(b)「状況の現象的把握」を好む日本語と「動作主による目的志向動作」という形で状況を把握するロシア語、という二つの傾向が顕著である。(a)の例:私をきつく抱きしめたまま目を閉じていた.(山田詠美);On krepko stisnul[PF] menya i zakryl[PF] glaza. (G. Dutkina訳); (b)の例:「堀口君,一緒に来てくれ」香嶋は席から立ち上った.堀口を連れて,香嶋が行ったのは,小田切グロサリー部長の席だった.(安土敏); - Vot shto, Horiguti, idemte-ka so mnoy, - skazal[PF] Kodima, podnimayas' s kresla. Vmeste s Horiguti on napravilsya [PF] k nachal'niku sektora bakaleynykh tovarov Odagiri (A.Dolin訳)。
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