研究課題/領域番号 |
23720191
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
金子 百合子 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (80527135)
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キーワード | ロシア語 / 日本語 / アスペクト / テンス / 意味的優勢素 / 言語的世界像 |
研究概要 |
本研究の目的は,時間内で推移する動的事象の解釈および記述の際にロシア語にとって本質的に重要と考えられる意味的優勢素「限界」の言語を貫くその体系性を構築することにある.そのために異なる意味的優勢素「安定」を持つ日本語との対照研究を行う。24年度は23年度から引き続き構築を進めている文学作品とその翻訳をもとにした露日対訳コーパスを用い統計的な分析を開始した。その過程で各対象言語に特徴的な言語相対的処理の仕方のひとつとして、語りにおける時制の交代の現れについても新たに検討課題として取り上げる必要性が生じた。 語りにおける時制の交替、特に過去の出来事を記述する際に現在形を用いるいわゆる「歴史的現在」の使用頻度が西欧諸語に比べると日本語で高いことはよく知られており、ロシア語との対照についても同様の傾向が研究者によって指摘されている。ロシア語の場合、この用法は現在形を持つ不完了体動詞に限定される。したがって、継起的な諸出来事の記述に際して最も自然に用いられる完了体動詞―「限界」概念を内包する―を〝捨てて″不完了体動詞を用いることはロシア語で意味的に優勢である「限界」の概念を形式的に取り払う意図的な操作であり、そこに大きな文体的効果が生じる。それとは対照的に、「限界」の概念が比較的弱い日本語においては、個別の出来事が動作の境界点によって厳密に時間軸上に位置づけられる程度が弱く、そのことが時制の交替に際しての話者の意図性を低くさせる面があると考えられる。語りにおける時制の交替に対照言語間でどのような差異が認められるのかを今後検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度以降構築してきた露日対訳コーパスをもとに、個別の特徴に応じてデータ分析を試みた。その過程で、ロシア語の「限界」意味野の日本語における処理のし方のひとつとして、語りにおける時制の交替を詳細に検討する必要が出てきた。時制の交替はアスペクトとテンスの相関性が(特にロシア語において)顕著に出る分野であり、先行研究も多い。検討対象を新たに加えたことにより、研究の全体像はさらに充実したものになるが、当初予定していた研究の総括は先延ばしにせざるを得なかった。また、24年度は研究成果発表の機会が諸々の事情により失われたことも、やや遅れていると評価する理由である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、24年度から引き続き検討を行っている時制の交替について言語資料の分析を速やかに行い、その特徴をまとめる。その後、ロシア語の意味的優勢素「限界」の日本語における言語相対的処理の仕方を分類し、その表現の多様性をまとめる。 資料の整理と分析を進めながら、研究経過の報告や研究成果の発表を、国内外の研究会・シンポジウム等で行うことに加えて,個別に得られた研究成果を総合した全体像を論文にまとめ発表する.その後,体系性の構築を進めるという課題の達成度を総体的に評価し,やり残した課題について確認する.
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は予定していた研究成果発表の機会が諸々の事情で失われた(国際会議の開催時期の変更や学会と代表者が世話役を務める検定試験とのバッティングなど)。次年度の研究費は、主に、二つの学会(アスペクト研究国際会議、ロシア文学会)への参加費用とロシア語(あるいは英語)による投稿論文の校閲費用に充てる計画である。
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