研究課題/領域番号 |
23720198
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
守田 貴弘 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (00588238)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 類型論 / 空間移動 / 使役移動 / 分類 / 語彙意味論 |
研究概要 |
本年度の研究成果は次の3点である.第一に,主体移動動詞の分類方法を使役移動動詞に拡張する問題点を明らかにした.主体移動は移動の結果と言語的に検証可能な終結性が連動しているため,アスペクトを基準とした分類が可能であるのに対し,使役移動は事象の中に使役行為の終結と移動の終結という2種類の終結性を考慮する必要がある.これは,現在の類型論の根幹をなしているフレーミングの概念を再検討する必要を示す結果である.第二に,動詞を分類するという行為そのものを科学哲学的観点から検討した.分類という行為は何らかの目的に基づいて行うものであり,科学研究であるためには何らかの操作の結果に基づいて分類はなされなければならない.したがって,移動動詞あるいは空間表現を対照言語学的あるいは類型論的に分析するとき,複数の言語で適用可能な操作に基づく必要があり,分類の目的については,空間や移動といった事象を抽出し,独立して研究することにどの程度の妥当性があり,他分野と共有可能な普遍性があるのか検討しなければならない.第三に,実験ビデオ (国立国語研究所共同研究プログラム (代表者 松本曜) で制作) を用いた発話実験を行い,26人のフランス語話者から主体移動および使役移動の発話データを収集した.使役移動のビデオは「蹴る」「手で運ぶ」という移動手段によってボールと椅子を動かすシーンを,話者に接近する視点,話者から離れる視点,そして中立的な視点から撮影しており,移動手段,移動経路,話者の視点を総合的に分析できるようになっている.本年度は録音の書き起こしまで完了している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 使役移動動詞の分類および(2) 日本語とフランス語の使役移動に関する類型論的地位の解明という目的に照らして,本年度は予定外であったビデオ実験に基づくデータ収集を行った.本来は日本語とフランス語の書き言葉のパラレルコーパスからデータを収集する予定であったが,ビデオ実験が先行したため,扱うべき動詞の選定作業は7割程度である.とはいえ,ビデオ実験のデータは(2)の目的に大きく貢献することから,おおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
使役移動動詞の分類に関しては,扱うべき動詞を確定し,文献の検討によって分類テストを考案し,インフォーマント調査を行う.また,日本語とフランス語の使役移動に関する類型論的地位の解明という目的については,研究計画の一部変更となるが,同一の知覚刺激に基づく結果として日本語とフランス語の比較が可能であるため,実験ビデオを用いた研究を継続する.したがって,日本語話者からもデータも収集し,録音データの書き起こしとタグ付け作業を進め,フランス語との対照分析が可能となる準備を整える.
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次年度の研究費の使用計画 |
フランス語動詞の分類にかかるテストはさらなる文献の調査と容認性判断が必要となる.したがって,書籍費用および一定期間インフォーマントに協力してもらうための謝金および現地調査のための旅費が必要である.同時に,対照研究を行うための日本語データの収集も必要となるため,実験協力謝金およびデータ入力補助謝金の使用を見込んでいる.また,英語論文の校正謝金および学会参加旅費での研究費使用も計画している.
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