研究課題/領域番号 |
23720199
|
研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
野元 裕樹 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 講師 (10589245)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 統語論 / 意味論 / 類別詞 / 数 / 数詞 / 名詞 / マレー語 / 日本語 |
研究概要 |
本研究の大きな目標の1つは、「個」や「つ」のような類別詞の使用が義務的な言語(例:日本語)、随意的な言語(例:マレー語)、類別詞を持たない言語(例:英語)の違いが何に起因するのかを解明することである。先行研究の多くは名詞または数詞の意味の違いに答えを探ってきた。本研究では、これまでほとんど注目されてこなかった、随意的類別言語における類別詞を含む表現と含まない表現の意味解釈の違いを手がかりに、類別詞、名詞、数詞それぞれの意味を明らかにすることで、類別詞の(不)使用に関わる言語間の違いがなぜ存在するのかを解明した。 それによれば、類別詞の核となる機能は単数の標示であり、名詞や数詞の意味に言語間の違いは存在しない。言語間の違いが存在するのは、「基本的数範疇(単数、複数、一般数)がどのように区分されるか」、「類別詞の統語的位置を名詞によって埋めることが可能か」の2点が言語間で異なるためであると結論した。つまり、言語間の差異は意味論でなく、形態統語論に存在する。類別詞言語と非類別詞言語の違いは単数が複数、一般数と形態上、区別されるかどうかによる。区別される言語では単数が類別詞で標示され、一般数が無標の形式となる。一方、区別されない言語では単数が無標で、複数と一般数は同一の有形の標示を受け、類別詞を持たない。類別詞が義務的な言語では類別詞の統語的位置は類別詞でしか埋められない。一方、類別詞が随意的な言語では類別詞の統語的位置は類別詞のその位置への(外的)併合または名詞(の移動)により埋められる。 本研究では研究基盤の整備として、マレー語のコーパスの構築も行った。本年度は手元にある約30時間の音声データのうち、文字化が済んでいないものを文字化し、文字化が済んでいるものについては文字化の再チェックを行い、間違いを修正した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、マレー語と日本語、英語を中心に研究を行う予定であったが、査読中の論文の査読者からマレー語以外の随意的類別詞も見るようにと指摘され、ペルシア語とジンポー語についても研究対象に加えた。そのため、マレー語における語や構文の分類よりも、マレー語に基づく一般化がこれらの言語においても成立するかの検証に時間を費やすことになった。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究の中で、英語の複数形が2以上の物体を指示する場合と具体的な数を問わない場合が意味的環境によって予測可能であると指摘する先行研究を見つけた。私の分析では、2以上の物体を指示する場合は複数形、具体的な数を問わない場合は一般数形である。これらは英語では同形で外見上区別がつかない。しかし、マレー語や日本語のような類別詞言語では2以上の物体を指示する場合は複数形(日本語では「~たち/ら」、マレー語では重複形)、具体的な数を問わない場合は一般数で無標の形となる。とすると、英語に関する研究で指摘されている意味的環境は、マレー語や日本語の複数形と一般数形の区別に関与している可能性が高い。2つの形式の使い分けは本研究の2つの中心的課題のうちの一つである。今後の研究では、この研究課題に取り組む予定である。具体的には、英語で指摘されている意味的環境がマレー語や日本語の2つの形式を区別するかを、母語話者への調査とコーパスの観察により調べる。 研究基盤の整備では、口語マレー語コーパスの正書法による対応ファイルの作成、重複形や数詞など、特に研究上必要となる文法項目へのタグ付けを行うことを計画している。書き言葉のコーパスについては、データ量を増やす。時間があれば、マレーシアで録画したテレビ放送の文字化を始めたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
物品費:150,000(言語学・マレー語学図書一式、プリンター・トナー、書類保管用文具)旅費:700,000(国内学会参加2件、国際学会参加2件、調査・資料収集・打ち合わせ)謝金等:300,000(研究補助、聞き取り調査協力)その他:150,000(複写費、外国語文校閲)今年度、外国語文校閲に予想以上の額がかかったことを受け、外国語文校閲の予算を申請時より大幅に増やした。増加分は、研究補助者の雇用時間を減らすことで補う。
|