今年度は本研究課題の2つ目の中心的課題に取り組んだ。この課題は、申請時には以下のように設定した。すなわち、類別詞言語の「複数形名詞」(例:日本語の「~たち/ら」、マレー語の重複形名詞)と、数について中立的であるとされる「裸名詞」が、どのように使い分けられるのかを記述し、その背景にある統語的・意味的仕組みを明らかにする。使い分けの一つとして、前者には定性あるいは特定性に関わる意味が伴うことが先行研究で知られている。それに関して、先行研究では定性か特定性かいずれかであるとしているが、本研究ではそのいずれにもなりうるという結論に至った。暫定的な分析としては、これらの意味は複数標識そのものから生じるのではなく、名詞に指示性を持たせる統語範疇(D)と数を担う範疇との間に統語的一致が起こるために生じるとした。しかし、この仮説を指示する経験的事実は十分でないので、今後議論を詰めていく必要がある。また、定性と特定性のいずれにもなるという事実は、Dにこれらの意味を担う意味的演算子を両方想定する、曖昧性による分析をとった。今後、定性と特定性について理論的分析を進めることにより、曖昧性によらず同じ事実が浮かび上がってくるような分析を目指したい。 申請時には当然のものとして前提としていた、2つの名詞形の数による違い、すなわち「裸名詞形」だけが数について中立的であるという前提について、Kaneko (2013)の指摘により、再検討が必要となった。そこで容認性判断実験を行った。その結果、英語などで一般に用いられてきた、名詞句の数に関するテストが日本語ではうまく行かないことが分かり、日本語でも使えるテストの発見という新たな研究テーマが見つかった。これについては継続の研究課題で取り組む。 本研究課題における研究基盤整備として、口語マレー語コーパスのデータ整理、追加も行った。
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