研究課題/領域番号 |
23720203
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
白井 聡子 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70372555)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 言語学 / 危機・少数言語 / 国際情報交流(中国) / フィールドワーク / 地域言語学 / チベット=ビルマ語派 / 川西民族走廊 / チァン語支 |
研究概要 |
中国四川省成都市において、西南民族大学チベット学科の協力を得ながら、約2週間の現地調査を行った。ギャロン語ヨチ方言の語彙および基本文型と、ダパ語ダト方言の語彙および文法を文型資料を調査し、音声データを含む一次資料を収集した。また、ダパ語メト方言の文法に関する補充的調査も行った。これらの資料はデータベース化し、音声ファイルとともに他の研究者にも提供可能な形とした。対象言語のうち、ギャロン語ヨチ方言はこれまでほとんど資料がなかった方言であり、今回の調査資料の意義は非常に大きい。また、ダパ語ダト方言はこれまで私が主に取り組んできた言語の別方言で、異なる世代(これまでの協力者は60代、今回は20代)の話者の資料であり、今後の対照研究において重要である。ダパ語メト方言の調査は、成果をまとめて発表するために必要であった。 現地調査で収集したデータの分析を進め、地域特徴の実態の解明に取り組んだ。特に、ダパ語における「上」を表す名詞語幹から前節語への文法化について詳細な記述を行い、周辺言語とも対照して、分析を行った。その結果、次のような成果が得られた。ダパ語におけるこの前節語の顕著な多義性を明らかにすることができた。さらに、同様の現象が、少し離れた地域で話される同形のチァン語には見られるのに、近隣のギャロン語群には見られないことから、この文法化がチァン語と共通の祖語の段階で起こったものであることを示した。この成果は国際学会において発表した上でさらに考察を進めて論文の形にまとめ、学術雑誌への採択が決定した。 このほか、ダパ語を中心に、人魚構文や、従属節および文の特徴について分析し記述を進めた。従属節についての研究成果は研究会で発表した。人魚構文および文の特徴については論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
言語調査による資料収集は概ね順調に進展している。当初、甘孜蔵族自治州ないしアバ蔵族羌族自治州における現地調査を計画していたが、現地情勢の影響で外国人の入境が禁止されていたため、調査地を変更して、成都市において、西南民族大学の研究者らの協力を得ながら調査を実施した。これによって、これまで以上の協力関係を構築すると共に、十分な調査を行うことができた。 地域特徴の現状の解明も、順調に進展している。平成23年度は、「上」を表す名詞語幹から前節語への文法化について、それぞれの言語における状況を記述し、特徴の分布状況をまとめて、分析を行った。従属節や文の特徴については、他言語との対象の前提となる、ダパ語の詳細な記述を進めている。 研究討議および成果発表についても、概ね順調に進展している。国際会議における発表1件、国内会議における発表1件、出版が決まった論文2編など、研究討議とそれにもとづく成果の公開を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
現地調査については、研究計画執行上の重要性に鑑み、ダパ語メト方言/ダメ方言/ダト方言、スタウ語ゲシ方言、ギャロン語ボラ方言/ヨチ方言、クイチョン語、チョユ語などを対象に進めていく。調査は、インタビュー調査を中心とし、録音・撮影を含む記録と分析を並行して進める。収集した資料は電子データベース化等を進める。 研究討議、関連図書等の資料収集により、現地調査で収集した資料を、周辺言語と対照し、また、言語学諸理論・諸現象に照らして地域特徴の検討を進める。特に、動詞形態法の全体像、視点関連表現の全体像など、これまでに明らかにしてきた諸現象の相関を含む統合的な特徴について考察を進める。さらに、四川省西部地域におけるこれらの特徴の分布状況を示し、地域特徴の現状を総合的に明らかにする。その上で、歴史言語学的視点と総合して地域特徴の形成過程を解明する。 以上の研究で得られる資料および研究成果について、アルバイトに整理を依頼し、研究協力者との共有や過去の資料との対象が容易に行えるようにするほか、ウェブサイト等で公開可能な形に整理する。
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次年度の研究費の使用計画 |
現地調査を実施し、音声・映像を含む一次資料を収集する。主たる対象とするのは、可能であれば前年度に調査できなかったスタウ語ゲシ方言で、現地情勢によってはダパ語ないしギャロン語の調査に変更する。いずれの言語も研究計画全体の中では重要であり、また、協力可能な話者との面識があるため、状況に応じた調査の実施が可能である。収集した資料は電子データ化して整理する。 調査によって得た資料を基に未記述方言の記述を進めると共に、平成23年度までに収集した資料、および、関連資料と対照を行い、地域特徴の解明を進める。特に、動詞、従属節に関して特徴を分析し、近隣言語における特徴の分布状況を検討して、地域特徴を明らかにする。 これらの研究で得られた成果について、内外の学会で発表して研究討議を進め、論文にまとめて出版する。さらに、ウェブサイトを開設して広く一般に公開する。そのため、アルバイトを雇用してデータ入力及びウェブサイトへの公開準備作業を依頼する。 なお、平成23年度は、現地情勢の悪化により、調査計画を変更したため、当初計画していた資料整理をアルバイトに依頼することができず、謝金分の繰越金が生じた。そこで、平成24年度は、前年度に実施できなかった資料整理分も併せてアルバイトに依頼し、繰り越し分の予算を使用する。
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